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JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から =連載(39)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツはははの一週間

2006年4月27日(木)

 これを読んで下さる皆様にお願いがございます。大きく息を吸ってー吐いて、吸ってー吐いて、大きく深呼吸して下さい。そして最近あった楽しい出来事を思い浮かべて下さい。又は大好きな食べ物のことを考えて下さい。そして大きな元気いっぱいの明るい声で次の「 」の中の言葉を声に出して読んで下さい。
 「おはようございまーす!」
 ボツカツ日本文化協会で日本語教師をしている私の一週間はこの声の主のおかげで楽しく面白く明るく素敵に元気よくスタートすることができます。
 声の主は「ボツカツ漢字博士」。日本語を学んで二年半になる非日系の英語教師。漢字が持つ意味が面白いと言っていつも、私がきっと知らないだろうと思われる難しい言葉を漢字で教えてくれます。  
 今日教えてくれた言葉の一例を紹介しましょう。「獅子吼」読み方は(ししく)。意味は①ライオンが吼えること。②大演説。この言葉から歴史上の大演説の話になり、話はドイツのヒトラーやキューバのカストロに及んでいきました。もちろん全て日本語です。 「共産主義」や「捕虜」「あるまじき行為」などという難しい言葉もじゃんじゃん出てきます。二十五歳と若いけれど、英語やフランス語はもちろん、ロシア語やギリシャ語なども堪能。驚くべきことに日本語は彼にとって十三番目の言語です(私にとっては一番目の一番得意な言語なのですが…)。博士は甘いものに目がないので、新しく「チョコレートの虜」という言葉も学びました。
 彼が漢字を好きな理由のひとつにこんなエピソードがあります。
「hipertricose」
 インターネットでこの言葉を見たとき、彼はこのポルトガル語の専門用語が分かりませんでした。ところが日本語の漢字を見たときに意味がすぐに分かった!というのです。日本語では「多毛症」。みなさんもお分かりになりますね? 漢字のひとつひとつの意味が分かっているからこその素晴しい経験です。
 時に(この言い回しが今教室で流行っています)二〇〇六年四月、来伯十カ月。私の日本語の語彙はこの異国ブラジルで確実に増えているということは一体どういうことなのでしょうか?
 彼をはじめとするボツカツで出会った日本語学校の生徒達の素朴な質問。鋭い指摘。正直な反応。「漢字博士」の他に「静かなギャグ大将」も「犬夜叉ちゃん」も「人間記憶機さん」も「忘れ物あわてんぼドクター」も「笑顔の天使」も「努力する大天才」などと私が密かにあだ名をつけている他の生徒も楽しく素敵なエピソードを持っています。
 今日も夜九時半に授業を終え、他の先生達と彼らの話をし、大声で笑いあっているとあっという間に十二時になってしまいました。 ボツカツにはどうしてこんなに愉快で楽しく面白く素直な生徒ばかり集まっているのでしょうか? 大きな声で笑うことが当たり前の生活はボツカツ日本語学校の先生、生徒達のお陰だと感謝する毎日です。
   ◎   ◎
【職種】日本語教師
【出身地】愛知県東海市
【年齢】35歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
連載(38)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「祖国」について思うこと
連載(37)=原田陽子=ピラール・ド・スール文化体育協会=「悔しい」気持ち
連載(36)=後田聡子=レシフェ日本文化協会 =いつかペルナンブカーナに
連載(35)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=子供と正直に向き合って
連載(34)=加藤志保=ピエダーデ文化体育協会=ブラジル―日本間で
連載(33)=今井さや香=コロニア・ピニヤール文化体育協会=村人の優しさに感動
連載(32)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=ブラジルのお盆
連載(31)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=ひらがなや漢字を描く?
連載(30)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=コロニアで聞く戦争体験
連載(29)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「サンタクルス病院にて」
連載(28)=辻 伸二=セルジッペ州日伯文化協会=歌と歩んだアラカジュの2年間
連載(27)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「アマゾンに暮らす」
連載(26)=東万梨花=トメアス総合農業協同組合=パラエンセのスピリット
連載(25)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=書道に日本語は必要?
連載(24)=原田陽子=ピラール・ド・スール文化体育協会=日本の反対側の日本
連載(23)=今井さや香=コロニアピニャール文化体育協会=「ブラジルの空の下で」
連載(22)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=気づいた「日本人らしさ」
連載(21)=山崎由加里=特別養護老人施設あけぼのホーム=〃家族とのつながり〃
連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を
JICA連載(19)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツから笑顔の風
JICA連載(18)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=「時の流れもお国柄」
JICA連載(17)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=パンタナールに漂う空間に出会って
JICA連載(16)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=料理アマゾナス風
JICA連載(15)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=「人の温かみを感じる町」
JICA連載(14)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「何を残して何を持ち帰るのか」
JICA連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣
JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」
JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会
JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
JICA連載(2)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「きっかけに出会えた」
JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」
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