コラム 樹海

 「カリブの楽園」は地獄―。政府の宣伝では肥沃な農地なのに現地は石ころだらけで灌漑もない。遠い海原を乗り越えて入植した日本移民も呆然と立ち尽くし荒廃の地を眺めるしかなかった。外務省と農水省が現地調査をしたというのだが、余りに杜撰な調べであり、実情を無視した机上の空論にしかすぎない。生活に窮した移民の多くは帰国しブラジルへと最移住した人々もいる▼そんなドミニカ移民が国に32億円の損害賠償を求め提訴したのだが―「時効」を理由にして敗訴になってしまった。とは云え小泉首相も認めているように実質的には「国の敗訴」と見ていい。裁判所は、外務省の「責任」を指摘し「調査や義務を怠った」と厳しく批判もしている。この裁判は珍しくも日本中で大いに語られたらしい。読売や産経の全国紙もだし中国新聞といった地方紙も社説で取り上げている▼移民行政というのは難しい。日本のような農業移住の場合は、かなり長い歳月が必要であり、耕地の選定や技術指導に始まり販売や栽培品種の選択とゼロから始まる。そんな支援を受けながら「成功者」を世に送り出すのだけれども、これとても数は少ない。アルゼンチン移民から発して海運王となり、ケネデイ大統領の未亡人と結婚し浪費に泣いたオナシス氏は例外中の例外▼悲惨なのは決してドミニカだけではない。アマゾンや東北伯に入った日本移民も大いなる苦しみを経験しレシフエの移住事業団に移民による発砲事件が起きたりもしている。それもこれも移住地選定に際しての調査不足が原因だったことを移民は忘れまい。     (遯)

06/06/13