コラム 樹海

ニッケイ新聞 2006年7月26日付け

 夏の甲子園大会の主催新聞社が、ブラジルの高校生クラスの野球の実状を取材に来た。日本の高校に留学したブラジル人高校生の活躍がめざましいからである▼ほとんど無名に近い高校が、甲子園で旋風を巻き起こす。そのチームの中で投攻守の要になっている選手たちがブラジル出身、となれば、だれでも「どんな育ち方をしているんだろう」と興味を持つ。取材はそれに応えるためのものだった▼留学のモチヴァソン(行動の動機)は「プロになる」である。もちろん、「(おカネを)稼ぐ」のが目的だが、気持ちの背景には、野球好きの、あるいは野球に郷愁を持っている祖父や父親の思いに応えたいという孝行心がある▼ブラジルの野球は、一世のいい意味での野球バカたちが老いてから、大衆を離れた感がある。たとえば、好カードの試合がボンレチーロ球場であっても、バカたちが席を埋めることで満席にならなくなった。しかし、選手個々の技術レベルはあがった。合理的な練習環境を得た、猛練習の成果である。ひところなら日本に着いて間がない選手が甲子園のマウンドに立つなど考えられなかった。いま、高校生の年齢層なら、実現するのである▼フッチボール選手の日本への出稼ぎと比較すれば、かれらは「既成」、野球選手はいってみればまだ「ひよこ」で前途多難である。とはいえ、意気や良し、である。請われて留学したら、全員が甲子園の晴れ舞台に行けるよう頑張ってほしいものだ。(神)