〝世界唯一の日本人町〟=中華街研究の山下教授=リベルダーデを再評価

ニッケイ新聞 2006年8月16日付け

 「ここは日本人街としては世界唯一」――筑波大学大学院教授、山下清海さん(54、福岡県)は、初めて調査に訪れたリベルダーデの感想をそう語った。
 山下さんによれば、東南アジアには駐在員を中心にした日本人集中地区があり、北米のロサンゼルスやサンフランシスコにも日本人観光客向けに特化した地区はあるが、現地に住み続ける日本人移民向けのコミュニティサービスは少ないという。
 レンタルビデオ、旅行社、ディスパシャンテ、日本食材店等企業から各県人会、文協各施設と移民史料館、援協診療所、老人クラブ連合会などの日系団体など移民向けの機能が集中した町は、世界中探してもここしかないという。
 「ここは生きた日本人町。リベルダーデを形成してきた日本移民の歴史はもっと評価されてもいい」と強調した。
 山下さんの所属は、筑波大学大学院の生命環境科学研究科の地球環境科学専攻と、実は理科系だ。
 だが世界の中華街を研究しており、日本華僑華人学会副会長の重責にも就く。エスニックタウン(外国人街)形成に詳しく、サンパウロ市でも中国人や韓国人が増えてきていると聞き、このたび訪れた。
 リベルダーデ地区を中心に三月二十五日街、美州新報など中国語新聞社、中国人企業家などを視察訪問した。
 元々は横浜、神戸、長崎などの中華街を比較研究することから始まり、シンガポールなどの東南アジア、欧米、オーストラリア等でも調査した。
 現在は「中国新移民」の実態研究をしている。南アフリカ、中東などにもたくさんの中国新移民が入って中国製品の販売などの稼業についている。チャイナタウンで有名なサンフランシスコ、バンクーバーだけでなく「世界中で新市場を拡大している」と強調する。
 世界に散らばっている中国人が共通して抱いている理想は、儲けたお金で子どもをアメリカの有名大学に進学させ、そこで就職し、最終的には親を呼び寄せて家族が米国に集結することを目指している点だという。「アメリカは彼らにとって特別な地です」。
 世界中にある中華街も徐々に変化をしているという。息子を有名大学にいれ、立派な企業に勤めるようになると、中華料理店などの親の稼業を継がなくなる傾向がある。
 「そうなると遅れてきた移民、ベトナム系やラオス系、カンボジア系中国人が代りに入り、表面的にはチャイナタウンだが、実態としてはリトルサイゴンに変わったりしているところもある」とエスニックタウンの変遷を分析した。
 日本人町として始まり、今では中国、台湾、韓国系進出がはげしいリベルダーデにも当てはまりそうな変遷パターンだ。
 山下さんは「日系人も教育に力を入れているから後継ぎになりにくい。そして、日本移民は新しい血が入ってこない。そうなるとより少数で後から来た移民が外国人街を継続させていくことになるのかも」との印象を語った。
 七月三十一日に来伯し、八月十日まで東洋人街を調査して帰路についた。