◇コラム 樹海

 なぜパラナなどの地方の百周年記念事業は着々と進みつつあるのにサンパウロは…。百周年を一年八カ月後に控え、これからは「地方の時代」ではないかと強く感じる。日本文化が継承されるための条件は、サンパウロ市のような大都市ではなく、実は地方にこそ揃っているのでは──と考えるようになった▼以前、ユダヤ系の移民研究所で文化伝承の仕組みを取材したとき「宗教が中心的な役割を担う」と説明され、ドイツ系の研究所では「南伯地方の閉鎖的な移住地群が要だ」と言われた▼なるほど宗教ならば世代を超えて一定の哲学や世界観が伝わる。この仕組みを使えば国境や言葉を超えても理念が継承される。迫害された二千年の歴史が生み出した文化継承システムが、ユダヤ教体系そのものだ▼だが日本人は敗戦により、天皇崇拝を捨ててしまった。進駐軍が植え付けた思想は、そのような民族傾向を排除する。日系人の場合、今から統一した宗教で、後継世代への伝承システムを作るのは難しい▼ならばドイツ系にならい、すでに存在する地方の集団地を見直し、〃文化継承の器〃として大事にすることが必要かもしれない。一つの世界観を子供に植え付けるには、ある程度の集団になっていないと安定した形にならない▼子供時代に日系同士が頻繁に顔をあわせて、無意識のうちに楽しい時間を過ごす。あまり外部との接触が多いとすぐ外へ出てしまう。閉鎖的な集団の方が理想的だ。その意味、誘惑の多い大都市は不向きだ。百周年を機に、地方や移住地の意義を問い直すのも意味がある。北パラナやノロエステはもちろん、地方こそが継承の器に相応しいのでは。(深)

2006/11/01