コラム 樹海

2006年12月6日付け

 「日本語図書無料貸し出し所」――奇特なここは、岩手県人会館(トマース・ゴンザガ街95)である。来る者拒まず。日本語の本を読める人に悪い人はいない、と信じ切っているのか、名前と電話番号を貸し出し簿に自主的に記せば、とくに期限など設けずに、誰にでも、おおらかに貸してくれる。利用者の多くは、一回につき三~五冊借りているようだ▼主として岩手県内の有志から寄贈された図書で、小説が多い。少し古いが、厚紙表紙の単行本と文庫本が図書室にぎっしりとある。書棚に収まりきらずに閲覧用メーザを占領しているほどだ▼事務局が忙しいのに加え、借りる人たちで大繁盛なので、整理に手がまわらないようにも見える。本好きのアポゼンタードなら、岩手県人会員になって(これは他県人でも可能なはずだ)ボランティアで手伝ってあげようという気になるだろう▼豊富な図書を見るにつけ、地方で日本語の小説本に〃飢えている〃人たちに、サンパウロ在住者と同じように読ませてあげたいという気持になる。岩手県人会館に労せずに通えるサンパウロ在住者、特にアポゼンタードは恵まれているといえよう▼それにしても、制限を設けずに所有図書を無償で貸し出す岩手県人会の度量は大きい。できるならば、今後もずっと続けてほしいものだ。ただ、借りる側は、常に県人会の厚意に応える態度でなければなるまい。図書を大事に扱い、必ず返却することである。これが絶対必要な基本的なルールだ。(神)