文学から描くノルデステ=田所京都外大教授「ブラジル北東部の風土と文学」

2007年1月13日付け

 「北東部は、ブラジル文化の揺籃(ようらん)の地である」――。翻訳・著述家で京都外国語大学ポルトガル語学科で講師を務める田所清克教授がブラジル文学を代表する小説家の出身地、ノルデステ(北東部)を題材にした『ブラジル北東部の風土と文学』(金壽堂出版)を執筆、昨年十二月中旬に出版した。
 田所教授にとって、ノルデステは「文化や音楽、民間伝承などのメッカ」。北東部の自然・文化景観とそこに生きる人々は、「いわば自分の魂を激しく揺さぶるほど愛着を覚える存在であり、尽きることのない郷愁の対象であり続けている」と綴る。
 同教授のノルデステへの情熱は、大学院時代のリオのフルミネンセ大学留学中、ブラジル内務省企画の「ロンドン計画」に参加し、女性作家のラッケル・デ・ケイロースの作品「Quinze-15」が描くセアラー州に一カ月滞在したことがきっかけ。その自然・文化風土のもつ雰囲気と独自性を実際に自身の目で見、耳で聴き、鼻で嗅ぎ、舌で味わい、そして直接肌で感じたことが、「北東部の文学を展望・俯瞰する上で大いに役立った」と同著で述べている。「北部アマゾナス」「南東部」「南部」「中部」の比較考察を行うきっかけにもなったと田所教授。
 それ以来、三十年間の研究のなかで、現在までに、世界的に知られているヴィニシウス・デ・モラエスによる「イパネマの娘」などの知名度の高い作品から、完成度は高いものの過去に日本語訳されるまで到らなかった作品まで翻訳を手掛けるかたわら、文法書やブラジル社会学について数多くの著書を多く執筆してきた。
 今回は「文明史と風土的特性からみた北東部社会」「ブラジル地方主義の伝統―一九三〇年代の小説を中心に―」「ブラジル民族形成の寓話―蜜甘き唇の処女(おとめ)『イラセマ』―」「ジェゼー・リンス・ド・レーゴと『サトウキビ連作』」「グラシリアーノ・ラーモスが描く貧困の文学―『干からびた生活(Vidas Secas)誕生の背景を探る』―」「ジョルジェ・アマード作品を読み解く」を計百八十七ページにまとめ上げた。
 メッセージを寄せたアンドレ・アマード駐日ブラジル大使は、同書について「簡潔であるにもかかわらず包括的で、(読者にとっては)ブラジルの偉大な諸作家に関する入門的な素晴らしい機会を与えることを確信している」と推奨している。
 発行は金壽堂出版。定価二千六百円。ホームページ-http://www.kinjudo.comEメールbook@kinjudo.com。
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 田所清克氏=熊本県出身。京都外国語大学大学院修了。現在(財)日伯協会常任理事、京都外国語大学教授、ブラジル民族研究センター主幹・大阪府外国人相談員アドヴァイザー。「ブラジル学への誘い」「愛詩てる僕のブラジル叙情歌」「現代ポルトガル語文法」など、七十冊以上の著書がある。