移民通し民族意識さぐる=橘川神奈川大教授が来伯調査

2007年1月23日付け

 神奈川大学法学部教授の橘川俊忠さん(61、神奈川県出身)がこのほど、調査のため来伯した。日本人の民族意識に関する調査を目的としたもので、現在毎日、サンパウロ市の移民史料館に通い、邦字紙で皇室がどのように報道されてきたかを中心に調査している。
 橘川さんの専門は日本政治思想史。〇四年に三カ月間、国際交流基金の派遣でUSP客員教授をしたのが初来伯だった。今回は同大学在外研究として昨年十二月十五日に来伯し、三月十二日まで滞在する予定。
 「日本人のナショナリズム意識の研究の一貫です」と主旨を説明する。
 戦後の日本を代表する社会学者・政治学者の丸山眞男氏(1914―1996)に薫陶をうけた。その考え方の中に、第一次大戦後の「昭和」という危機的な状況が、日本民族が潜在的に持つナショナリズムを発現させた、というものがある。
 それを、移民社会に適用しようと橘川さんは試みている。「日本の民族意識に潜在的にあるものが、移民社会の方が顕在化するのは」という仮説をたてた。
 「移民は日常的に違った社会の中で自分を保つために、日本国内とは異なる高い緊張感を維持している。そのために、天皇に対する思いが移民社会の方が顕在化するのかもしれない」
 海外最大の日系集団地であり、勝ち負け事件まで起こしたブラジルこそ、ナショナリズムの調査地に相応しいと判断した。「それが今はどうなっているのか。文献史学の立場から調べてみたい」。具体的には、天長節の扱いの時代による変動だという。
 従来、政治学で扱われてきた移民と言えば、満州国や朝鮮支配の問題だった。「移民社会を日本の歴史のどこに位置づけたらいいのか、分からないのが実情だと思う」。その道の権威としての正直な感想だ。
 硬派なテーマを基調としつつも、どこか独特のユニークさが眼差しにただよう。「政治学としての移民史研究は初めてではないか、見たことない」と既成概念を笑い飛ばした。