「日本にとってブラジルは従来以上に重要な国」――鈴木孝憲氏、会議所で講演

2007年1月27日付け

 ブラジル日本商工会議所(田中信会頭)は、二十三日、鈴木孝憲デロイト・トウシュ・トーマツ・ブラジルの最高顧問を招いて、講演会「BRICsのBブラジル経済とビジネスの可能性を検証する―第二次ルーラ政権を展望して―」を開催した。
 鈴木氏は、日本では十一年間連続してブラジル政治経済に関しての講演を行っている。セミナーでは、統一選挙の結果やブラジルが抱える問題点、可能性などを踏まえた上で、「ブラジルは日本にとってこれまで以上に重要な国」と結論付けた。
 ルーラ政権の四年間は、「インフレを抑え、経済の安定化を確立したが、公約は未達成で、組織的汚職のため政治的モラルは低下したまま。社会問題は〃バラマキ福祉〃以外にめぼしいものがなく、外交はうまくいっていない」と鈴木氏。
 ルーラ第二次政権が発表したPAC(成長加速計画)は税負担軽減、インフラ投資などを掲げたが、「資金源が不明、減税幅が低すぎる、金利や構造改革について触れていない」などの点を指摘し、「PACでは五%の成長率達成は無理」との見解を示した。
 一方で、ブラジルの政治リスクはBRICs各国で最小。中南米で、左傾化した政権が続出しているが、ブラジルは穏健派、中道路線で政治体制が安定しているという。
アグロインダストリーや天然資源分野、中南米一の工業力からブラジル経済の潜在力を評価し、対外債務問題も大幅に改善したことで、欧米勢からの、ブラジルへの注目度も高いと紹介した。
 ブラジルの成長率が低い要因として、重い税負担、世界一高い金利、レアル過大評価の為替レートの三点を挙げ、「先送りにされてきた構造改革と産業政策が必要。八〇年以降、整合性のある経済政策がない。いつまでたってもインフォーマル経済から抜けられない」という。
 二〇〇五年以降、中国製品の流入ラッシュがおき、繊維、靴、玩具など、多くの雇用を抱えていた業界が被害を受けていることを示し、「政府として緊急対応措置をなぜとらないのか、気が気じゃない」と危機感を表した。
 ブラジルには豊富なビジネスチャンスが存在しているが、「乗り遅れていた日本企業がようやく追い上げてきた」。四輪、二輪各社での生産拡大、味の素第四工場建設や新日鉄の対ウジミナス直接投資、各商社の動きを例にあげた。
 最後に、ブラジルは「中長期的には資源大国としての重要性を増し、十年後には世界の食料供給地図を塗り替える可能性がある」。日本移民百周年を機に更なる日伯関係緊密化を目指して、「日本勢がブラジル戦略を見直すことを期待したい」と締めくくった。
 会場を訪れていた西林万寿夫在サンパウロ総領事は、「中国に注目している」と話し、「国内の中国製品ラッシュ以上に、その後の食料やエタノールをめぐる動きが気になる」。
 鈴木氏は「日本がエタノールについてモタモタしているうちに中国が動くことも考えられる。日本は先々の手を考えて動くべき。ぜひ交流年を活かしてほしい」と、改めて日伯交流年への強い期待を述べた。