身近なアマゾン(29)――真の理解のために=人間に知られないまま絶滅=そんな生物も多かった?

2007年2月20日付け

 □なくなってしまった自然(1)
 ここ三年ばかり採集に出掛ける回数が増えてしまい、アマゾン河水系、ラプラタ水系(パラナ川、パラグァイ川の二河川)、サンフランシスコ川水系、ウルグアイ川水系などの大河、そして、その大河に注いでいる支流の各河川、また大河には合流せず、直接大西洋に注ぐ海岸山脈から流れ出す清流などを回っているのだが、筆者の訪れる地方は、大半があまり文明の入っていない地域が多い。その理由は、人がはいっていない地域でなければ珍しい魚は採集できない、と考えられるからだ。
 アマゾン河水系を除いて、パラナ河、サンフランシスコ河水系、ウルグアイ水系、海岸山脈河川などでは、その流れる地方の気候とか、水温、水質、地質などの地味によるものなのか、逆に人がはいっていないような所では、あまり沢山の魚はいないようだ。
 反面、高温多湿で大半を密林ジャングルで覆われているアマゾン河流域は、その反対で、誰も入っていない場所の方が魚種、生息魚数も多くなる。その理由は、高温多湿によって全てのものの分解速度が速くなって、滋味が豊富になることが原因のようだ。
 一五〇〇年にブラジルが発見されて以来、現在に至るまで、絶え間なく人間の持つ欲望によって、開発という名の破壊行為が少しずつ進行しているのが事実である。そんな開発の中で、我々自然科学に興味のある人間が気づくことなく、絶滅してしまった生物が一体どの程度あったのか、ということだ。それは知る術もないのだが。
そのような環境の中で、筆者が一人で始めた魚採集なのだが、個人のちっぽけな行動の中でも、少なくとも十種に余る未記載(人は新種という)の魚に出会っている。この十種に余る未発見だった中のあるものは、筆者が発見しなければ、誰にも気づかれることなく、未記載のままで絶滅してゆく運命だった種類もあるはずだ。
 そういう意味では、筆者の行動も少しは生物界に寄与しているのではないか、というような、我田引水的なことも考えたりしている。
 ブラジルが発見されてより、この五百年で原始林が切り倒されて、草原になったり、砂漠の一歩手間のステップ地域になってしまった土地がいかに多いか、という事実もよく理解している。
 サンパウロ、パラナ、サンタ・カタリーナといった州は、この過去二百年にわたって続けられた森林伐採によって、気候までが変わってしまった、という記録がある。切り拓かれた土地が宅地化されたり工業地帯になったりで、その結果そこを流れていた川が汚染されてしまい、その川やその周辺地域の生物が絶滅してしまった、と思われる地域が本当に広範囲にわたって存在している。
 サンパウロ市内を流れている汚染チエテ川の最上流も、昔は綺麗な川で、魚もたくさん釣れた、という歴史と一八〇〇年代の貴重な記念撮影写真などにも残っている。現在のこのチエテ川はどうだろう。汚染環境でも生息できるイトミミズとドブネズミとゴキブリぐらいしか残っていないのではないだろうか。つづく        (松栄孝)

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