「鳥居の向こうに教会が」=橘川教授が調査終え帰国

2007年3月17日付け

 移民の皇室崇拝のあり方などを通して、日本人の民族意識を調査をしていた神奈川大学法学部教授の橘川俊忠さん(61、神奈川県出身)が十二日に帰国した。約三カ月にわたった調査の結果、「日系社会も多様化している」との感想を強めたという。
 「明治の日本がブラジルにはある」とは広く知られた言説だが、その強い民族意識はどこから来たのか。調査の一環として「神棚を持ってるか」との問いを各地で行ったが、持っている人は少なかった。「むしろ神棚に何が入っているかも意識していない」のが現状だった。
 にも関わらず、「今の日本はだらしない」という祖父の国への不満を方々で聞いた。外国から見た日本を意識したり、異民族に囲まれた生活環境の中で、「清潔、勤勉、正直などが日本人の特質として強調されで、そこから本家本元の日本はどうなんだという問いになり、明治回帰へとつながる」との印象を強めた。
 橘川教授は「コロニアで勝ち負け事件はあったが、戦後日本の徹底した民主化・天皇制の解体の経験を経ていないので、戦前の移住者の意識が色濃く残っている」と分析する。
 さらに「日系人全部が強烈に皇室を意識している訳ではない。〃明治の日本〃は日系社会の持つ多様性の一部に過ぎない」との印象を強めた。
 「鳥居の向こうに教会が見える」。調査で訪れたレジストロで、そんな景色が目にとまり深い感慨を覚えた。北パラナのアサイ、ローランジャなど各地で鳥居が建立されているのを見たが、「信仰を示すのでなく日本のシンボルになっている」と感じた。神道の象徴が、本来よりも広い意味を持ち始めている。
 各地の移民史料館を訪ね、史料の整理や管理が遅れていることを痛感した。「特に戦前入植者の史料集めには、本気で取り組まなくては」と感じた。
 帰国後は、同大学の学部長に就任する。