コラム 樹海

2007年3月21日付け

 年寄りはよく言う。「近頃の若い者は何も知らん」。これは、多くの場合、自分の知っていることを若い者が知らない、いう意味で、自分の知識の幅や深浅の程度の範囲で言っている。だから、若い者側に言わせれば「老体どもは何も分っていないんだから」となる▼東京都知事選挙に出馬する建築家の黒川紀章氏の名を見て、夫人の若尾文子さんを思い出した。五〇、六〇年代、大映全盛期の頃の看板女優だった人だ。彼女と同年代以上の人なら、映画ファンでなくても、名は憶えているだろう▼日本から来て間がない若い人に「若尾文子って知ってる?」と訊いたら、首を振った。黒川紀章候補のほうは印象があるみたいだった。なにしろ、若尾文子さんは二十代前半の若い世代にとっては、自身の祖母の年代である▼芸能人の名についていえば、年寄りは最近の日本のタレントや歌手を若者のようには知らない。ブラジルのその畑の人たちについてはもっと知らない。いうまでもなく、関心の問題である。年月が人を変えるともいえる。事(こと)が専門であれば、年齢に関係なく該博度は深まる。凡人はそうはいかない▼関心がないことを、そんなものは知らなくても生きていける、といってしまうと、融通性のない年寄りになってしまう。自戒を込めて、雑学をつねに仕入れることはいいことだし、なんでも知ろうとつとめることで頭脳の後退に歯止めをかけられるのではないか。「若い者は何も知らん」と言ってはいけないのだ。(神)