拝啓 緒方貞子JICA理事長=変わり行く移住者支援=コロニアの声を聞いて

2007年4月21日付け

 ブラジル日系社会と国際協力機構(JICA)は、切っても切れない深い絆で結ばれている。戦後移住者の大半は、その移民事業なくしてあり得なかった五万人であり、その〃落とし子〃ともいえないだろうか。さらに、その子孫である二世たちは、同機構の制度を通して訪日研修し、その成果をブラジル社会に還元してきた。さらに現在働き盛りの多くの二世、三世は訪日就労しており、この流れは環流して、日本国内にも大きな存在感を持つようになった。欧米では移民政策が国政を左右する時代になっている中、移住関連事業を縮小する方向の検討が行われているとの報を、多くの日系人は悲しい思いで受け止めている。いまこそ、JICAのもつ移住関連のノウハウを活かす好機ともいえないだろうか。緒方理事長の初来伯を機会に、JICAとの関係について、市井の意見を聞いてみた。(編集部)

■「移住150年まで日本語を」
(嶋田巧〔74歳、二世〕、パラナ日本語教育センター会長=パラナ州アサイ市)

 せめて移住百五十年まで日本語が途絶えないよう、教育に力を入れてほしい。JICAは最近冷たくなってきている。あまり協力してくれない。
 日本にいけば、みんな日本のファンになって帰ってくる。日本語教育の動機付けのためにも、訪日体験は重要だ。
 できれば、来年の百周年を記念して、二十~三十人をパラナから日本へ招待してほしい。
 今、デカセギの犯罪などで、日本における日系人のイメージが悪くなっていると聞き、大変残念に思います。そのイメージを良くするために、こちらで日本語を勉強しているような立派な子供たちを、日本の人々と交流させてほしい。
 もっとブラジルに目を向けてほしい。

■「日伯交流のために日本語研修を」
(村山惟元〔75歳、一世〕、西部アマゾン日伯協会会長=アマゾナス州マナウス市)

 一九五八年から七年ほど、海協連(JICAの前身)で仕事をしていました。当時の北伯の移住地ではどこも楽をしたところはありませんが、受入期間の間は補助金も出ていましたし、五十年、六十年が経った今、いつまでも「金をくれ」と言うわけにもいかないでしょう。
 当協会は医療関係の助成もいただいています。当地(アマゾニア州)の日系集団地を巡回するには、どこへ行くにも飛行機で行かなければいけないため、費用の五割は当協会で負担しているのが現状です。一世のお年寄りがいる間はあればいいのですが、世代が変わればこれも段々必要なくなると思います。JICAの移住事業が変わっていくのは、時代の流れでしょうがないのかもしれません。
 ただ、日系団体として、日本語教師の研修事業だけは続けてほしいと思います。二、三カ月の研修というだけでなく、現地の先生が日本を知ることが大事なことです。教師を育てなければ、生徒の日本語は上達しません。日系、非日系を問わず日本語を学んでもらい、日本文化を知ってもらうことが、ひいては両国の文化交流につながると思います。そのためにも現在の研修システムを続けてほしいです。

■「伯農業に貢献する日系農協」
(近藤四郎〔62、一世〕、ブラジル農業拓殖協同組合中央会会長=サンパウロ州グアタパラ市)

 全ブラジルの日系農協を傘下にした農拓協の会長をしています。
 ブラジルの農村地区での日系農協は、地域で信頼されており、日系人を通じての国際交流ともいえます。
 農協を通じて日本人はブラジルに貢献してきたともいえますし、農協が日系社会と地域社会との窓口になっている例もあります。
 農拓協は現在、JICAからの助成金を受け、婦人セミナー、視察、講演会を行い、農協間の連携、活性化に繋げています。
 廃止を含めた移住事業・営農普及事業の見直しが行われると聞いていますが、「もったいない」というのが実感です。できれば、農協間の交流を維持できる形で事業を続けていければと思っています。

■「日本の先端技術の移転を」
(長井江美〔36歳、二世〕、クリチーバ日本語モデル校教師=パラナ州クリチーバ市)

 日本語教師としては、やはり本邦研修を継続してほしいと願います。そして、非日系生徒が増加しているのに伴って、若い教師の養成が必要になってきているけど、みながサンパウロまで研修にいけるわけではない。もっと地方に指導教師を派遣してもらいたいです。
 最近は生徒に非日系人が増えている。幅広い日本文化に興味を持つようになってきており、その動きを盛りあげるために、もっと日本から日本文化を紹介する専門家をひんぱんにブラジルに送ってもらい、全伯各地を巡回してもらえたらと、いつも思ってます。
 一市民としては、デジタルTVのように、もっと日本の先端技術をブラジルに持ってくるような関係を進めてほしい。

■日系農業は日本全体に匹敵
(沼田信一〔89歳、一世〕、バンデイランテス農場経営=パラナ州ロンドリーナ市)

 素人の計算だが、私の調べでは、全日系人の農産物生産量は、日本全体のそれに匹敵するぐらいの規模、ポテンシャルがある。
 その根拠は、日系人が所有している全農地を合計したら、北海道よりも広くなる。北海道は三割しか農地に利用していないが、ブラジルでは六~七割を利用しているから、実際の農地は北海道の倍以上あり、これは日本の全農地面積の半分に匹敵する。
 ブラジルは二毛作ができるから、その農業生産は日本全体に近いと思う。そのように、日系人の人的資源としての価値を見直してほしい。
 そのほか、ブラジルには膨大な未開発の地下資源が眠っている。
 JICAにはこのような点にどんどん着目してもらい、日伯関係をさらに深めてほしい。

■日系社会があるメリット
(堤剛太〔59歳、一世〕、汎アマゾニア日伯協会事務局長=パラー州ベレン市)

 JICAのベレン支所は二〇〇五年三月で閉鎖されました。遠くなった感じはしますが、その後もサンパウロ支所からちょくちょく職員の方に来てもらっており、理解者は増えてきたと感じています。
 当協会が受けている文化、教育関係の助成は減少傾向にあります。いつまでも日本に頼らず自助努力を、という言い分は分かりますが、現在、当協会傘下の日系団体は殆どが二世の会長になっています。
 一世には精神的なつながりがありますが、世代交代が進む今、いろいろな面での支援が削られることで日本との関係が疎遠になってしまうのではないかと心配です。まだはっきりとバトンタッチができていない状態です。もうちょっと温かい目で支援してもらえればとも思います。
 ブラジルの日系社会には、州や市とのつながりといった、日系人が作り上げた信用に基づく無形のメリットがあります。新しい国で何かやるのとは違ってルートがある。そういった部分も評価してもらえたらと思います。

■老人クラブの活動支援を
(上原玲子さん〔66歳、一世〕、ブラジル日系老人クラブ連合会事務局長=サンパウロ市)

 JICAには四年前から念願のシニアボランティアを派遣して頂き、とても感謝しています。派遣されたシニアはこちらで熱心な活動をしてくださり、今後も是非シニアの派遣を継続して欲しいです。お願いになりますが他の講師も派遣して頂ければ、全伯各地にある老人クラブでより幅広い活動ができると思います。
 このほか老ク連はサンパウロ日伯援護協会が行う巡回診療班を通して、老人クラブ育成助成金を頂いています。最近は年間三千レアルほどのこの援助金は地方老人クラブへの講師派遣費や各会場の賃貸料などに使っていますが、到底足りないのが現状です。
 また九三年に現在の老ク連のセンターを建てる時には、JICAに何度も援助協力を申しでましたが、「福祉施設を優先して援助資金を出す」という理由で断られました。なんとか自助努力でセンターを建てることはできましたが、苦労して建設費を工面した記憶があります。
 今年はレアル高に加えて、援助額の削減などから例年の六割ほどに減らされてしまうのではないかと、みなで心配しているところで、その点を配慮していただけたら幸いです。

■高齢化進む対日系人医療
(根塚弘〔64歳、一世〕、サンパウロ日伯援護協会巡回診療班長=サンパウロ市)

 援協の日系移住地への巡回診療はJICAが海協連だった時代から委託・協力事業として実施してきました。現在はサンパウロ州や南マットグロッソ州などを中心に、約九十の日系移住地で毎年約四千人の医療検査をしています。
 最近はブラジル全体の医療のレベルがよくなり日系人の生活も向上しましたが、まだ地方部では財政状況が厳しく医者へ十分に通えない日系の高齢者がたくさんいるのも事実です。そうした点から当事業は対日高齢者の健康管理に大きな貢献できています。
 しかし十年ほど前に当巡回診療がJICAからの完全な助成事業となってからは、必要経費の八割から九割ほど頂いていた助成金は、毎年の助成金の削減に加えてレアル高が重なり、現在では二、三割ほどまでに目減りしています。足りない費用は援協が自助努力で工面していますが、全体として厳しい状態にあるのが現状です。

■農協婦人部の交流深めたい
(吉泉美和子〔66歳、一世〕、ADESC(農協婦人部連合会)会長=サンパウロ州インダイアツーバ市)

 日系農協の婦人で作るADESC(農協婦人部連合会)で活動しています。
 昨年はJICAの行っている日系農協婦人研修事業で会員が訪日しました。
 日本の新しい技術に触れる非常にいい機会でしたが、年齢が六〇歳までと制限があること、日本語が堪能である必要などから、有資格者が限られ、優秀な人材が行けないということもありました。
 ブラジルの婦人は高齢でも若くて元気なので、ぜひ制限を緩和していただければ、嬉しく思います。
 農拓協がJICAの助成を受けて行っている婦人セミナーの企画、運営などもADESCが行っています。ブラジル各地や近隣国ボリビアなどからも参加者があり、固まりがちな活動が大いに活性化しており、継続していければと願っています。