コラム 樹海

2007年6月19日付け

 万葉歌人というよりは、あの4500余首の選者であったの説もある大伴家持は「石麿にわれ物申す夏痩せによしといふものぞうなぎめしませ」と詠み、滋養豊かな鰻が好みだったらしい。夏痩せにはウナギを食べなさい―の歌だけれども、奈良や平安の貴族たちは、あのぬるぬるは庶民の物であり食卓には乗せなかったと―物の本にはある▼日本人が大喜びする蒲焼は江戸の末期に登場したものだが、あれを食べるとなんとなく元気が出てきそうだ。ところが―である。この鰻が減ってきて枯渇寸前になっているそうだ。日本ウナギもだが、仏やスペインなどの欧州ウナギも激減し、養殖には不可欠な稚魚の漁獲量を6割も削減するという。これで最も困るのは、言うまでもなく日本である。日本の鰻輸入は消費量の80%に近いとされ、土用の丑の日ともなれば台湾から生きた鰻を運ぶ専用の飛行機が空を飛ぶ▼中国からは、蒲焼にしたのを輸入しているのだが、
これは欧州鰻の稚魚を養殖したものであり、日本鰻ではない。台湾でも欧州の品種をも使っているらしいのだが、これらの輸出先は100%が日本であり、稚魚の漁獲削減となれば、その影響は物凄く大きい。日本での鰻消費は年間で20万トン近いらしいのだが、今の情勢が続けば、そのうち高価な食べ物になる可能性もある▼ちなみに中国製の蒲焼は安くていいのだが、水銀が含まれたりして水俣病の悪夢を想い起させる危険も少なくない。などと―難しい話は措くとして大伴家持が詠む「夏痩せに―うなぎめしませ」は遠い昔の話なのかな―。   (遯)