■記者の眼■―――今後のモデルとなる判例=問われているのは制度自体

2007年7月5日付け

 【既報関連】「人身保護請求(被告の保釈請求)を四回もした」。三日午後にミナス州ベロ・オリゾンテのラフィエッチ州裁判所で行われた浜松市日本人レストラン店主強殺事件の弁護側証人尋問の後で、ニッケイ新聞の取材に応じたジョゼ・マリア・マイリンキ・シャーベス弁護士は、そう強調した。
 ウンベルト・ジョゼ・ハジメ・アウバレンガ被告(35)の拘留期間が、ブラジル判例の約百日を超えている点を突いて、弁護側では被告の拘留を解く手段を講じている。
 ある裁判所関係者も個人的な意見と前置きしつつ、「被告は前科もなく自宅もあるから、法律的に彼を拘束し続けるのは、ひとえに裁判官の判断にかかっている」との感想を漏らす。
 今回の証人尋問で証言をしたのは、市警の科学捜査の専門家二人だった。シャーベス弁護士は専門家に対し、両国の指紋検証システムの違いや、外国の警察が作成した証拠書類がそのまま通用するのかどうか、同じ結論が導き出されるのかを繰り返し質問し、その有効性に疑問符を投げかけた。
 くわえて「証拠書類だけなく、物的証拠もブラジルで検証できなくては」との原則論を振りかざした。
 被告に有利な証言を引き出すというよりは、国外犯処罰(代理処罰)制度そのものに疑問を呈している感が強い法廷戦術だ。
 在サンパウロ総領事館の顧問弁護士、佐々木リカルド氏は「日本では強盗殺人容疑者なら判決が出るまで拘留されるのは当たり前ですが、ここでは〃推定無罪〃の原則から一定の条件を満たせば保釈される可能性がある」と解説する。
 その現状を踏まえた上で、「両国の捜査手法の違いを埋めるためにも、早く司法共助協定を結ぶ必要がある。今回は強盗殺人事件としては初の判例となるでしょう。今後に大きな影響を及ぼす重要な試金石です」との認識を示した。
 逆に、ここでブラジル人弁護士が指摘する点や採用した戦略は、今後に起こるであろう同様の事件の際に、日本で捜査書類を作成する時に参考事例となるだろう。ブラジルの検察官が法廷闘争しやすい書類、証拠物件とはどのようなものか。
 四月二十日にミナス州から送付された嘱託尋問の書類(カルタ・ロガトーリア)は、静岡新聞によれば日本国外務省を通じて最高裁に六月二十一日に届き、同二十七日には静岡地裁についたことが確認された。
 片道で二カ月と一週間かかった計算だ。今後、実際に嘱託尋問が行われ、ミナス州に戻され、翻訳を経て公判に持ち込まれる。その間、被告を拘留し続けるのは裁判官の判断だ。
 今回、拘置所内で刑務官から暴力を受けているとのアウバレンガ被告の告発を受け、ブラジルメディアの報じ方次第で、裁判官の心証は左右される可能性もある。佐々木氏も「影響がないとは言い切れない」という。
 全てが手探り状態。次回は、検察側の嘱託尋問がサンパウロ市で行われる見通しだ。結審するまで、まだ目が離せないようだ。  (深)