コラム 樹海

2007年7月27日付け

 さきの日本祭りの芸能の舞台で人目をよりひいたのは、国際交流基金の出し物「Qioguem」だった。日本語をあてれば「狂言」である。演目はなくテアトロ・コミコとなっていた。派手な演奏と台詞(せりふ)はポ語▼基金によれば、演じたのはカンピーナス大学の演劇部のグループ。日本の狂言に題材を求めたのではなく、一〇〇%オリジナルである。欧米で狂言の研究家は多いし、著作も多い。ただ実践は、まだ少ないようだ。ブラジルの演出者にとっては、いわゆる世に問う野心作であるわけだ。すでに昨年から求められて国内各地で上演されているという▼日本祭りでの観客の反応は、といえば、台詞が理解できた人たちは、熱狂的にともいえるほど拍手を贈っていた。音響が悪く、ポ語の理解力が十分でない人には解りにくかったと思われる。それでも、狂言の滑稽味は受け取られただろう▼観終わったあと、連想したのは〃西洋風寿司〃だ。日本の伝統的な寿司にマヨネーズが取り入れられたと知ったときの感じである。「ブラジル人が狂言を創作すれば、こうなるのだ」と納得できる▼一昨年、リオ日本人学校の中学部の生徒たちが、あの酒好きな太郎冠者、次郎冠者が主人に棒で体を固定されながらも盗み酒をする、古典的な「棒縛」をポ語で演じたが、それとは違う。前衛とは、新しいものをつくろうとする人たちが自分たちの考える理想を求めて変革するのだそうだ。その意味で「Qioguem」は前衛狂言なのだろう。(神)