コラム 樹海

ニッケイ新聞 2007年9月14日付け

 ブラジルの地理、文学に関係した著書、翻訳書が八十六冊もある京都外国語大学の田所清克教授の話を直接聴く機会があった。還暦間近の人だが、せいぜい四十歳代の半ばにしかみえない。おしゃれで闊達で、雄弁だった。学術、文芸活動を通じて日伯両国はさらに理解し合い、関係を緊密にしなければならない、と主張する人だ▼三十年前の留学時、一ヵ月あまり北東伯を旅し、すっかり魅せられてしまったそうだ。特に北東伯文学には淫するほどに魅力を感じるという。北東伯は、ブラジリダーデ(ブラジル性)を投影した国民文化のメッカだと言ってはばからない▼さて、自身の大学だけのことでなく、一般に学生たちに歯応えがない、とちょっと慨嘆気味だった。ポ語を学ぶ課程に入ってきても、なぜそれを選んだのか漠としている。文学をやってほしいとは思う。そうでなければ、今をときめくエタノール・ビジネスの推進役となってくれてもいい、と言い、優柔不断から抜けなさいと促す。漫然としてしている学生の現状が、なんとも歯がゆいらしい▼毎年一回、大阪市内の自宅を開放して、日本とブラジルに関係している人、したい人を集めて親睦パーティを開く。多いときは百人にもなる年があるそうだ。願いは「ブラジルはすばらしい。理解者、日伯両国の橋渡しをする人、もっと増えよ」である。今度の来伯で、自身の学問の後継者になる大学院生を二人連れてきた。とろけるような嬉しそうな顔をしていた。(神)