コラム 樹海

ニッケイ新聞 2007年9月15日付け

 昭和の妖怪・岸信介元首相は強かった。あの安保改正で20万とも30万人とされる学生らのデモに囲まれ「反対」のシュプレヒコ―ルと怒号が響き渡る。1960年のことだが、官邸にいた岸首相は泰然とし政治的な課題を果せるのなら「死んでもいい」と語ったのエピソードがある。戦犯容疑で巣鴨に収容され釈放されてから首相になった怪物である▼この祖父に比べれば、辞任表明した安倍晋三首相は―やっぱり若い。米マスコミは「(既に)屍だった」の酷評だし、政界にも衝撃が走った。臨時国会が開かれ所信表明の演説をしたのが9月10日。そして12日には記者会見を開いての「首相を辞める」である。突然―と言えば、あまりにも唐突に過ぎる。インド洋の給油活動を継続するための延長法案が民主党の反対で難航するのは、知っていたはずだ▼このテロ特措法の問題で審議が混乱しそうなので「辞職」の道を選んだのだろうが、こうした難しさは政治につき物であり、これから逃げるのは政治家としての資質を問われかねない。首相として、憲法改正に意欲的だったし、防衛省への昇格など大きな功績はあったが、松岡農相の自殺など5閣僚の辞職というマイナスもある▼さて―次期総裁は誰か。福田康夫元官房長が出馬し、小泉純一郎前首相を推す声もあったが、本人にそんな意思はないらしく「固辞」している。ならば地方人気が高い麻生太郎幹事長なのだが、どうも福田支持の派閥連合の力には及ばないようだ。ワンマン宰相の孫・麻生太郎内閣の誕生を望む人は多いのだけれども、ここは福田2代目が次期政権を担うと見たい。   (遯)