英訳版『姿三四郎』出版へ=〃世界のヤマシタ〃が同意=全伯講道館有段者会=岡野会長と懇談=珍しいポ語からの翻訳=「日本人の考え方、世界に広めたい」

ニッケイ新聞 2007年10月4日付け

 英訳版『姿三四郎』の出版に意気投合――。先のリオ世界柔道大会で来伯していた〃世界のヤマシタ〃こと、柔道家の山下泰裕氏(東海大学体育学部教授)がこのほど、柔道小説『姿三四郎』の英訳版を出版する方向にあることを明らかにした。山下氏は今大会中に、今月に同書のポ語版を出版する全伯講道館柔道有段者会の岡野脩平会長らと会談、柔道を通じた教育理念に関して意気投合し、同企画を決意した。同氏は同書を通じて「日本人の生き方、死生観、敗者への思いやりなどを世界に広めたい」と大きな期待感を抱いている。
 小説『姿三四郎』(富田常雄著)は、もともと新聞小説として連載されたのが原作で、明治時代に活躍した柔道家の生涯を描いている。岡野氏によれば、「身体、精神を鍛錬、修養し、己を完成して世の補益とする」柔道の創始者・嘉納治五郎の教育理念がわかりやすく理解できる。
 山下氏は数年前から同氏の活動に理解のあるトヨタ自動車の奥田碩氏(同社前会長・現取締役相談役)らとともに同書の英訳版の出版を計画していた。しかし「原作の直訳が難しい」など様々な理由から具体化にはならなかったという。
 そんな折、今回の来伯で同有段者会が来月に同書のポ語版を出版する計画にあることを知り、これをもとにして英訳版を刊行することを発案。同ポ語版が「すでに外国人にもわかるように日本の時代背景や思想が翻訳されている」(岡野会長)ことも決め手となった。
 岡野会長にとっても今回の件は、「山下くんとの協力関係がまとまったことで、我々のやっていることが間違いでなかったことがわかった」と喜ぶ。
 山下氏は昨年四月、国際平和活動や柔道の普及を目的に、NPO法人『柔道教育ソリダリティー』を設立。世界各地での講演活動や柔道指導のほかに、〃柔道発展途上国〃に「リサイクル柔道着」を送るなどの活動をおこなっている。
 世界各地での柔道を通じた教育活動に力をいれる山下氏は、「こうした活動は将来的に日本の大きな国益になる」と強調する。同氏は柔道ファンでも知られるロシアのプーチン大統領とも親交が深く、「英訳版の反応がよければロシア語版も」との希望もある。
 山下氏にとって今回は四度目の来伯。来年の移民百周年については「日本人移民の方々は今までブラジルで大変なご苦労をされてきた。世界的にすすむ欧米化のなかで、我々が決して忘れてはならない日本人としての誇りや心をお持ちだと思う。すばらしいことですね」と称賛した。
 またブラジル代表チームが今大会で三つの金メダルを獲得したことについては、「ブラジルに移住した柔道家の長年にわたる努力が、百年の歳月を経て大きく花開いたのではないか」と顔をほころばしていた。
 山下氏が代表を務める同NPO法人の活動についてはホームページサイト、http://npo-jks.jpまで。