アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(8)=家畜連れ去る謎の牝牛=〝初〟アマゾン下りはスペイン人

ニッケイ新聞 2007年10月12日付け

 ◇野生牛の話(2)
 モンテアレグレでもアレンケールでも同様に牛の飼育が盛んである。三、四十年前、一頭の白い牝牛がいた。どこから来るのか判らないが、この牛が現れると、牧場の牛がゾロゾロとそのあとをついて行って行方不明になってしまう。
 牧場主たちは、なんとかこれを防ごうとするが、何時の間にか風のようにスーッと現れて、ゾロゾロと牛を連れて行ってしまう。何人かあとをつけて行ったが、着いたところにかなり高い峠があり、それから先は行くのが怖くなって引き返したという。稀に一人勇気のある奴がいて、峠を越えて行ったが、それっきり戻って来なかったという。今でもこの白い牝牛の話は謎になっている。
 野生牛のついでに、ウンと奥地の天然草原に「変な奴」がいるという話である。これはバラタ・ゴムの採集に奥地に入り込んで、インジオたちとも交流のある人たちの話である。
 この交流のあるインジオは、インジオ・アララといって、そのもっと奥にはインジオ・ウルブーというのがいるそうである。インジオ・アララは順化していて、ポ語を話す者もいるし、キリスト教の宣教師が入り込んだりしているが、インジオ・ウルブーは、ほかの種族との接触を嫌って、闘争的である。剽悍で、インジオ・アララは尻込みして近寄らない。しかし、このインジオ・ウルブーがこの「変な奴」に出会うと、顔色を変えて一散に逃げ出すという。
 「変な奴」は、ジャクラルー・アッスーといわれている。ジャクラルーは大とかげ、アッスーは大きいということである。二メートル以上ある由で、凶悪無類、狩をしていて獲物を斃すと、その血の匂いを嗅ぎ付けてくるという。
 その上、皮が固くて矢など受け付けない。これがインジオを恐れさせる理由の一つと思う。立ち上がるとゴジラを小さくしたミニ・ゴジラのようだ、という説と、いや立ち上がらない、ジャクラルーのでっかい奴だと思えばいい、という説がある。それが、動くものとみれば襲い掛かって来る始末の悪い奴だということである。
 一度お目にかかって、あわよくば捕まえてやろうと思ったが、肺を悪くして二年入院、その後商売が忙しくなって忘れてしまっていた。今は、爺(じじい)になってしまって、体力などは見る陰もない。

 ◇魚の話(1)
 世界最大の水量を誇るアマゾン河は、沢山の魚がいるだろうとは、誰でも推察できると思う。実際に五百種類を越すといわれ、南北に跨る大洋に棲息する魚類よりも種類が多いとのことである。
 種類も多く、数量も多いが、時、所、気象条件などを勘案しないと、いくら頑張っても一尾も釣れない。これは狩猟も同じことで、動物の出歩かない時間や場所などをブラブラ歩いていては、どんな性能のいい銃を持っていても何にもならない。
 一五四一年三月、スペインの冒険家フラシスコ・ピサロは、ペルーのインカ帝国を征服した余勢を駆って、弟ゴンサロ・ピサロを指揮官として、スペイン人二百人、インジオ四千人、馬二百頭、リャマ二千頭、猟犬二千頭からなる大遠征隊を送り、エルドラードを求めてアマゾン河を下った。
 途中糧食欠乏、危難続出で停頓、フランシスコ・オレヤナに命じて、部下六十人を率いて、食糧の調達や這般(しゃはん)の状況を視察させた。オレヤナは、飢餓に迫っている本隊を見捨てて、南米大陸最初のアマゾン河航下者であるという栄誉を担って、四二年八月、アマゾン河口に達したとある。
 これだけの兵やインジオを率いていて、食糧欠乏に至ったのは、畢竟、狩や猟に対しての知識を欠いていたために他ならない。つづく (坂口成夫、アレンケール在住)

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