焼津母子殺害事件=容疑者の兄夫妻に聞く=弟思う複雑な心境=事件以後は連絡なし

ニッケイ新聞 2007年11月10日付け

 「被害者の家族も悲しかったと思うけど、私たち家族にとってもものすごいインパクト(衝撃)だった。みんな深い悲しみに陥ったわ」――。静岡県焼津市で起きたブラジル人母子殺害事件で国際手配されているエジルソン・ネベス容疑者の兄とその妻がそれぞれ八日夜、九日午前にニッケイ新聞の電話取材に応じ、被害者の家族に対しての現在の心情をこう明かした。
 ネベス容疑者は昨年十二月、静岡県焼津市の派遣契約社員ミサキ・ソニアさん宅で、ソニアさんと次男を、自宅で長男を殺害した疑い。同容疑者は事件発覚前にブラジルへ帰国、その後国際手配されたが、現在の所在はわかっていない。
 容疑者の兄でサンパウロ市近郊で弁護士の仕事をするエルソン氏(44)は、ニッケイ新聞の取材に対し、弟の事件を「テレビやインターネットですぐに知った」と振り返り、「あの事件以来、弟からは何も連絡はない」と何度も強調。その上で、弟はまだブラジルにいるかという質問に「そうとは信じられない。実家の家族も誰も彼がどこにいるか知らない」と間髪入れずに答えた。夫人も同じ返答だった。
 夫人によると、同容疑者は二年ほど前にブラジルに一時帰国している。十日間の滞伯中に、エルソン氏宅と、実家の家族に会うためにサンパウロ州バストス市を訪れたという。
 容疑者の帰伯理由について夫人は「彼はかねてからの夢が叶ったお礼をブラジルの教会で果たすために来た」と説明する。話によれば、ネベス一家はカトリックへの信仰心が厚く、エジルソン容疑者も同様だったという。
 八年前にエルソン氏と再婚した夫人は、「私は彼とその時のたった一度しか会ったことがないけど、彼とは娘二人といっしょに教会に行ったわ。そのとき彼は娘をとても可愛がってくれて・・・。口数は少なかったけど、家族を大事にする感じのいい人だった」と、容疑者の人柄について話した。
 昨日八日付けで報じた通り、すでに日本政府は同事件の代理処罰(国外犯処罰)の手続きを進めるため、ブラジル側に捜査書類を送っている。これを踏まえて、仮に容疑者が逮捕された場合、すぐに裁判が始まる可能性もあるが、との問いかけにエルソン氏は「殺人事件が裁判になるのは自然なこと。別に文句を言うつもりもない」と述べた。
 裁判になった場合、傍聴をするつもりはあるかとの質問を夫人にぶつけると「まったくわからない。裁判所からも何も連絡はないし、事件の事情もよく知らないんだから」と一転して語気を強めた。
 夫の弟の事件への関与については「そんなことは答えられない。私はブラジルにいて、彼は遠い日本にいた。彼は少なくとも私に日本での生活を連絡して寄こすこともなかったんだから」と堰を切ったようにしゃべった。
 エルソン氏の心情を尋ねると「主人は弁護士で頭がいいし事件を受け入れている。でも弟が今でも無実であってほしいと思っているはず」と、その胸の内を推しはかった。
 夫人によれば、バストスに住む容疑者の父親は現在、病気を患っているという。「彼に話を聞こうとしても難しいでしょう」と話し、電話を切った。