サンパウロ市でデジタル放送開始=日伯経済交流の起爆剤に=森総務審議官ら30人来伯=ルーラ大統領「歴史的な日だ」

ニッケイ新聞 2007年12月4日付け

 「ブラジルTV界は今日からデジタル時代を迎える。技術的、社会的、文化的な大きな飛躍プロセスが始まった」。二日夜にサンパウロ市のサーラ・サンパウロで行われたデジタルTV放送開始式典で、主要六TV局が生中継するなか、ルーラ大統領は高らかにそう宣言した。ブラジル政府は昨年六月、日本以外では世界で初めて日本方式の採用を決定した。来年の百周年を目前に控え、日伯経済交流の起爆剤として期待されている。
 一九五〇年にテレビ放送が始まり、七〇年代にカラー放送に発展した。式典の司会をした俳優のフェルナンド・ナッシメント氏は「カラーテレビが普及し始めたとき、数年したら誰もがカラーでないテレビを想像できなくなった。今回のデジタル化でも同じことが起きる」と比較した。
 会場にはSBT社長のシルビオ・サントス氏を始め、人気司会者のラッチーニョ、ハウル・ジル、今回デジタル放送を開始する主要六TV局の看板アナウンサーなどが一堂に顔を合わせたほか、約一千人の招待者が集まった。
 式典の途中、午後八時半からは主要六TV局(Cultura、SBT、Globo、Record、RedeTV、Gazeta、Bandeirantes)で生中継となり、まずジルマ・ロウゼフ官房長官がマイクを握り、続いてエリオ・コスタ通信大臣が、ブラジル方式が現在において世界で最高の技術であることを強調し、「コンバーター(conversor)の値段は近々絶対に安くなる。見ていてほしい」と自信のほどをのぞかせた。
 既存のTV受像器でデジタル放送を見るにはコンバーターが必要。政府は二百レアル程度で販売できると予想していたが、実際には五百~千百レアルとなっている。
 最後に登場したルーラ大統領は、テレビが六〇年代から果たしてきた広大な国土内の意識の共通化、言語への付加価値付け、生活習慣に関する啓蒙などの役割をあげ、「テレビは国内の団結を強める。今回の改革はさらにそれを推し進めるだろう。今日はブラジルにとって歴史的な日だ」と語った。
 コンバーターを安価にするために社会経済開発銀行(BNDES)から十億レアルの融資をすることを決定したと発表し、放送開始を象徴するリモートコントロールのボタンを押した。
 今回の放送地域は大サンパウロ都市圏だけだが、約五百五十万世帯、約千七百万人をカバーする。今後、ブラジルサッカーW杯(二〇一四年)をメドに、その前年の一三年までに段階的に全伯に放送地域を広げる計画。テレビ受像器は全伯五千五百万世帯の大半に普及しており、大きな経済波及効果が期待されている。
 来年からは、ジンガというブラジル開発のソフトが実用化され、リモコンを操作することで放送中の番組に参加できる双方向サービスが付加される予定。
 日本からは総務省の森清総務審議官ら政府や民間関係含めて三十人近くが出席した。森総務審議官は式典前にニッケイ新聞の取材に応え、「世界で一番進んだ技術を率先して取り入れたブラジル政府の英知に敬意を評したい。百周年を来年に控え、経済交流を深める上で意義深い」と語った。
 日本政府はブラジルの採用実績をテコに、チリ、コロンビア、ペルー、エクアドル、アルゼンチンなどにも働きかけをしている。