コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年1月30日付け

 さきごろ第百三十八回芥川賞を受賞した新人作家川上未映子さん(31)の、過去の歌手時代のCDが売れ出しているという。作家として脚光を浴びたので、歌も聴いてみたいと関心を持たれたのだ▼ちなみに、歌手当時発売したのはアルバム三作、シングル三作、足掛け四年で売れたアルバムはそれぞれ約八百枚、受賞後は一日で合わせて六千枚の注文を受けた日もあったという。人が他人に対してどういう動機で関心を持つのか予測しがたい▼この話を知り、通じるものがある、と感じたことが最近あった。さきごろ刊行された『女たちのブラジル移住史』の著者たち、中田みちよさんら六人のことである▼六人は、コロニアでは文芸、教育などの分野ですでに知名であった。人は作品をみれば「この人はどんな人なんだろう」と興味を持つ。六人もそう思われていただろう。それが『女たちの――』で、知ることができたのである▼彼女たちは、自身の半生を活字にした。自分史というか、ノンフィクションである。個人情報の公開でもある。だから、書き手によっては、一部か半分くらいを隠して、書かない場合も考えられる。六人による自身の公開度は推し量れないが、とにかく情報は提供された。作家川上さんのケースとはちょっと異なり、興味を持った側が、図らずも〃入手〃がかなった▼『女たちの――』の内容は、巧まぬ迫力がある。ぐんぐん引き込まれる。発行部数は多くないようだが、ぜひ一冊見つけて一読をすすめたい。(神)