コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年2月20日付け

 つい最近までNHKの番組「街道てくてく旅」に出演していた四元奈生美さんは、プロ卓球選手である。そしてタレントと呼ばれる仕事もしている。二十九歳、卓球選手としては、もう峠を越したと思っていたのに、先頃の全日本卓球では、あの北京五輪代表の福原愛選手を混合ダブルスで破り、準優勝したりしている▼タレントとしても、幼児語的な独特の話し振りでけっこう人気があるようだ。いわば、二足草鞋(にそくわらじ)を履いているマルチ人間といえよう。スポーツ界ではさまざまな分野でプロの世界ができている。これは、社会が成熟している証拠である。才能のある人には暮らしやすい社会といえよう▼昔、日本人移民社会の構成員はほとんどが農業移民だった。営農がうまくいかず、口に糊(のり)するために、腕におぼえのある人たちは、渡航前日本で身につけた手仕事に商売替えをはかった。すべてがうまくいったとは限らない。つくったものがよく売れる、つまり需要がなければ、転進して求めたもう一足の草鞋は役に立たなかったのである。二足はおろか、一足も履けずに苦労し、失意のうちに他界した人が多かった▼その点、現代の子孫の時代は、少なくても社会の成熟度が違う。運にも左右されるが、異色のめしのタネが二つあれば、二つとも花が開く可能性がある。現にまったく畑違いの仕事を複数こなしている人もいる▼能力がありながら、そうできなかった先駆移民たちの無念さはいかばかりだったろうと想う。(神)