アマゾンの動物――在住半世紀余の見聞から=連載(31)=サウーバより怖いコレクソン=肉食性、大群通り過ぎるのを待つ

ニッケイ新聞 2008年3月11日付け

◇昆虫の話(3)
膜翅類
〔コレクソン〕(またの名をタオカ)
 一見サウーバに似ているが、もっと黒い。大きさは同じくらいだが、サウーバと異なり、肉食性で大群で移動する。何メートル幅、時には何十メートルの幅で、長さはどれくらいになるか判らないが、真っ黒に地面を覆ってザワザワとやってくる。
 大群は、鼠でもゴキブリでも蜘蛛でも百足(ムカデ)でも、生きているものは片っ端から捕まえて食ってしまう。それで害虫退治にたいへん有効である。
 人間や牛でも、これが来ると、三十六計を決め込んで、遠くから様子を見て、通り過ぎるのを待って元の場所に帰る。下手に強情を突っ張って踏み殺したり、払ったりしても、所詮は多勢に無勢、全身真っ黒にたかられ食い殺されてしまう。蟻が通り過ぎたあとは、白骨だけが残っているということになる。
〔トカンデイラ〕
 再生林の細い木や枯れ木の根本の地中に穴を掘り、木の根本に徳利の口状の出口がある。集団の数は余り多くないが、その木などをトントンと叩くと、ゾロゾロと出て来て散兵線を布く。
 大きさは二センチから三センチに達するものがある。黒色で黒褐色の毛がある。無毛の奴もいる。もう一回り小さくて毛のないのに、タピイーがある。ともに螫(さ)して噛み付く。その痛みは強烈で、二十四時間も続く。
 しかも、その後しびれが続く。日本人は語呂から「突貫蟻」という。稀にアレルギーの強い人で、生命に関わるほどの酷い目に遭って片腕を切断せねばならないことになった人もある。
 これを片付けるには、ソーッと近寄って穴の中に石油を流し込むことである。石油まみれになって皮膚呼吸できずに死んでしまう。
〔ポト〕
 日本のウスバアリガタハネカクシに似ている。首筋や背中などでモゾモゾやっているので、不用意にパチンと叩くと潰れて汁が出る。たちまちヒリヒリする。すぐに水で洗わないと、かぶれてきて水疱になり、これが破れて痛い目に遭う。完全に皮膚が回復するまでに二週間かかる。

 蜂類
〔カーバ・デ・イグレージャ〕
 一般に蜂のことをカーバという。
 日本のアシナガバチに似ているのが、カーバ・デ・イグレージャ(寺院の蜂)。家の軒先などに巣をつくる。よく家の中に侵入して、昼寝している上に落ちてきて、螫(さ)したりする。
〔カーバ・タツー〕
 樹木の幹に長さ五十センチ、幅二十センチくらいの巣をつくる。その形がタツーに似ているので、カーバ・タツーと呼ばれる。全身黒紫色で、螫(さ)されるとカーバ・デ・イグレージャより痛い。
「カーバ・オンサ」
 これに似ているのがカーバ・タピウー、ともに樹木あるいはその枝に直径十五センチ、長さ十五~三十センチの丸型や釣鐘型の巣を作る。これは、下手に石を投げたり、木の幹を叩いたりすると襲ってきて螫(さ)す。
 執拗で遠くまで追いかけてくる。うっかり螫(さ)されたら、ひどく腫れあがる。顔や頭をやられたら、それこそ二目と見られないご面相になる。
 カーバ・ベイジューは、巣を叩き潰すとバラバラと落ちる。巣棚がベイジュー(タピオカでつくった焼餅)に似ているので、その名がある。 つづく (坂口成夫、アレンケール在住)

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