コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年4月18日付け

 「自分探しにブラジルに来た」という若者が多かった、交流協会生と呼ばれる日本の派伯研修生たち。OBはもう七百五十人ほど。いったん活動を中止していたが、今年もまたやって来た。ブラジル日本交流協会の事業だ。活動全般の軸足をブラジル側に移した、とされる▼今年来伯した一人が(研修を終えて)帰国したら「サッカーや犯罪だけでなく、もっとさまざまなブラジルのイメージを日本に伝えたい」と着伯あいさつをした。サッカーはともかく、「犯罪」が渡航前からすでに常識として織り込まれている。街の強盗などほとんどなかった頃移住した者として、今の若者たちが不憫(ふびん)でならない▼一年足らずの研修期間だが、凶悪犯罪などに遭遇せずに、ブラジルを嫌いになどならずに、日本に帰って欲しいと思う▼OB七百五十人の中には、ブラジルに再渡航して来た人もいるし、ブラジル以外の外国に出て仕事をしている人も少なくない、と聞く。それが「自分を探しあてた」か、「将来の道を定めた結果」か、あるいはまだ途半ばなのかわからないが、自分探しはより完成に近づいているのだろう▼ブラジルは本当に人間関係も含めて自分探しに好適なところなのか。通過でなく、定着した老移民たちの見方はけっして一様ではあるまい。ともあれ、若者たちはやって来る。得るものが、日本に伝え得るものかどうか、当事者以外にはわからないが、首尾よくそれぞれの目的が達せられるよう、よそながら願っている。(神)