コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年5月16日付け

 スペイン新内閣の国防相は、三十七歳の女性である。さきごろのマドリードにおける就任式ではマタニティードレスとパンツスーツを着用し、軍部隊を観閲した。その五日後アフガニスタンに駐留するスペイン軍の視察も行なった。婦人科医が同行したという▼男女機会均等が掛け声だけでない国においては、女性の各界への進出がめざましい。スペインはその典型的な国の一つで、国防相は象徴的存在といわれる。ブラジルもその均等が着実に進んでいる。おおまかにいって、日本を凌(しの)いでいるだろう。そして、わが日系社会、コロニアも…▼日系社会での女性進出は六十数年前、救済会(憩の園を経営)元会長の渡辺マルガリーダさんが嚆矢か。当時は、男女機会均等などいわれていなかった。渡辺さんが仕事を始めたのは、ヴィジョン(事業に向う理想、構想)があったからではあるまい。抗争により収監されて困窮している人に救いの手を差し伸べたい、という思いが、頭脳と身体を動かした。純粋な篤志である▼時を経るにしたがい、日系女性たちは、進出する分野を広げていった。福祉、教育、美術、法曹、そして実業界へ、と。土台には意志とヴィジョンがある▼コロニアに限定すれば、各文協では〃縁の下〃で経営を支え、県人会トップにも名を連ねだした。もう少し伸びて、百周年協会でも大きな発言力を持てる地位についてほしかった。女性らしいキメの細かい、先達高齢者への温かな配慮ができたと思うからだ。(神)