■記者の眼■新しいページは開かれた=皇室からの特別なご厚意

ニッケイ新聞 2008年6月26日付け

 百年祭最大のハイライトである皇太子さまのご訪問が昨日終わり、日本に向かって無事に旅立たれた。
 「異例の長期間」と日本で報道された九日間のブラジルご滞在のうち、五日間に渡り取材した。皇太子さまの行かれるところには必ず人だかりができ、日系、非日系の垣根を超えた幅広い人気に驚かされた。
 あちこちで日系人と握手をされる光景が見られたのみならず、異例のポ語あいさつまでされたUSP法学部では、学生たちの求めに応じて民間人との記念撮影にもこたえられるという、通常はありえないことすらなさっていた。
 読売新聞の小寺以作リオ支局長は昨日掲載の「特派員が見る百周年とコロニア」エッセイで、伯字紙が「皇太子さまが一日にこれほど大勢の手を握ったのはおそらく初めてだろう」と書いたことに対し、疑問に思い宮内庁の同行記者に尋ねたところ、「同じ感想を漏らしていた」との興味深いエピソードを披露した。
 サンパウロ市式典では、雅子さまからの「心からのお祝いの気持ちをお伝えして欲しいと申しておりました」とのお言葉まで紹介された。日本の大手紙記者によれば、このような形で雅子さまのお気持ちを代弁されるのは異例であり、それだけ日系社会のことを大事にされている証拠だろうという。
 このような皇太子さまの姿勢を感じ取ってか、ブラジルメディアも「異例のふれあい」を強調し、敬意を込めた論調を徹頭徹尾おこない、大量の報道をした。
 天皇・皇后両陛下からの移民史料館への御下賜金を伝達いただいただけでなく、皇太子さまご自身も著書のポ語訳出版を許可され、その印税をサンタクルース病院(旧日本病院)拡張工事計画に御下賜されたと聞く。
 今まで長いこと、一般の日本国民のブラジル移民への関心よりも、皇室のお心遣いの方が深く、温かみがある状態が続いてきたように見える。その一貫したご姿勢が、今回も如実に表れたことを敏感に感じとった日本メディアも幅広く報道し、結果的に日本国民一般への認識に跳ね返りはじめているように見える。
 昨年末来の両陛下のブラジル日系社会への関心に対するご発言はもとより、四月の両陛下による大泉町ご視察、同月二十四日の両陛下および皇太子さまの東京百周年式典へのご出席、同二十八日の皇太子さまの神戸式典へのご出席など、異例づくしの一連の百周年行事だったといっていい。
 今回のご訪問は、一連の皇室からのご厚意の総決算ともいえるものだ。
 皇室が来られる次の機会が、いつになるのか分からない。もし、ブラジル一般社会と一体になった今回のような大歓迎が次回もできるなら、それは、日系社会がエンジンとなって文化の継承・普及の努力が継続された証左だろう。
 殿下のご帰国により、移民史の新しいページが開かれた。我々はすでに二世紀目の中にいる。
 皇室のご厚意やブラジル社会からの期待に、日系社会がどう応えるかが、今こそ真摯に問われている。(深)