■記者の眼■日本社会への統合の時代=愛知の基金は貴重な先鞭

ニッケイ新聞 2008年7月25日付け

 「これからは日本へのインテグラソン(統合)の時代が始まる」。十九日にセブラエが主催したデカセギ・セミナーで、在日ブラジル人向け大手ポ語新聞・TV局を経営する村永レオナルドIPC社長は、そう興味深い講演をした。
 デカセギ開始から二十年以上が過ぎ、在日ブラジル人コミュニティは新しい時代に突入しつつある。
 ブラジルでは日系二世の高学歴化が一般社会への統合と、中産階級への社会上昇をもたらしたとの認識から、村永氏は「統合の鍵は子弟教育にある」と語り、すでに大学在学者と卒業者で百人以上おり、「これからますます増える」と予想する。
 ただし、現状での高校進学率を問うと「昨年、岐阜県可児市で十人のブラジル人生徒が中学を卒業したが、高校に入ったのは二人だけだった」と残念そうに答えた。まず、小中校レベルでの教育充実は不可欠だ。
 その意味で、デカセギの四人に一人(八万人弱)が住む愛知県で、外国人児童生徒向けの日本語学習支援基金という先進的な取り組みが始まったのは、在日コミュニティにとって朗報だろう。
 愛知県国際交流協会は、同基金の開始にあたって、県内の公立小中学校と外国人学校に通う外国人児童生徒の保護者約六千九百人に予備調査を行い、約三千百人から回答をえた。
 それによれば、外国人児童生徒のなんと約半分(四六・二%)が日本生まれで、外国人両親の四人に三人(七三・五%)は子供を日本の高校へ進学させることを希望している。さらに約半分(四五・四%)の親が将来、日本に住み続けたいと回答している。
 移住一世の世代に、いくら移住先言語を教えようとしても限界があるが、二世世代は違う。移住二世たちが日本語に熟達し、大学進学して日本社会に進出することで、コミュニティ全体の評価を上げることができる。親と日本社会との仲介役を務め、結果的に統合への筋道が開かれる。
 注意すべきは、日本語だけの子供を育てるのではなく、「バイリンガル話者が理想」との認識を持つことだ。親との愛情のやり取りには、祖国の言葉が不可欠であり、それを失わせる日本語教育では、家族の絆を失わせ、人格形成に悪い結果を生む可能性がある。
 ただし、現実にはバイリンガルどころか、日語でもポ語でも読み書きができないセミリンガルが増えつつあるとの危機感を訴える声も聞く。それよりは「少なくとも日語では読み書きできる」という機会を与えることは、十分に価値がある。
 ブラジルの日系人が日本文化を継承しながら一般社会に統合したように、日本社会も受け皿としての雰囲気を醸成することも重要だ。今回のような公的組織の先鞭をつける取り組みは、まさにその一端といえよう。
 このような試みが、愛知県内に留まらない大きな影響を及ぼすことを期待したい。(深)