コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年7月31日付け

 百周年を記念していろいろな楽曲が生まれた。コロニアで作られた『海を渡って百周年』、井上祐見さんの『オブリガーダ笠戸丸』、中平マリコさんの『歩み続けて百年』もあるが、残念ながら日本ではあまり聞かれないだろう▼そんな中で、宮沢和史さんが六月に日本で発売した『足跡のない道』をサンパウロ市公演で聞いたが、いずれ爆発的に広まる可能性を感じさせるスケールの大きな曲だった▼ただし、彼の公演で以前から感じていた違和感を、今回も濃厚に感じた。来伯二十回以上、大のブラジルファンを自認するだけに、彼の音楽にはその影響が強いように思う。ブラジルで自分の音楽が受け入れられることを願っているだろうが、公演を見たのは三回目だが主たる客層はいつも日本人だった▼例えば、外国人が日本的な音楽を歌っても、日本で珍しがられこそすれ、本物を超えることは難しい。外国人が日本人に求めているのは日本的なエッセンスに他ならない。つまり、見せたいものと、見たいものがズレている状態ではないか▼五月にカブキ・ロック「雅」の世界ツアーが文協で行われた時には、非日系の若者が数日前から列を作って並ぶ騒ぎを起こした。基本はロックだが、日本的な味付けが随所にあり、そこに若者は惚れこんだ▼しかるに、宮沢さんなりのジャポニズム(日本情緒)を掘り下げて欲しい。国際化した現代こそ、実は真摯に自分の中の日本と向き合わなければならない時代なのだ▼なぜ『島唄』が外国で人気があるかといえば、深く掘り下げたエスニック音楽の薫りがあるからではないか。独自のセンスで、日本を世界に売り出して欲しい。(深)