コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年8月8日付け

 「あなたたち二世はブラジレイロなのかジャポネースなのか」。大阪大学とUSPが共催した国際セミナーの「映画とアイデンティティ」というセクションで日系短編映画の上映会に続いて、日系監督らによる討論会があり、そんな質問が非日系学生から出された▼ブラジル人が使う「ジャポネース」というポ語は実にくせ者だ。「日本の日本人」「日本移民」「日系人全体」の全てを含んでいる。意味する範囲が曖昧すぎて、聞く側も話す側もかなり注意が必要だ▼前述の質問の場合、「ジャポネース」という意味は、日本の日本人を示しているように感じるが、二世監督は「私はブラジレイロだがニッケイでもある。その両方だ」と応じた。日本でデカセギをし、日本人から「ブラジル人」扱いされた経験のあるその監督にとって「ジャポネース」は、日本の日本人という認識だった▼セミナーで、米国大学で日系研究をするレッサー教授は「六〇年代、日本映画の影響を受けてきたブラジル人監督は、二世俳優を〃ブラジルの日本人〃として演技させてきた」と指摘した。ブラジル人として演技したかった二世は不満足ながらも、「着物で芸者をやれ」という指示に従って、実生活ではしらない「日本人」を演技してきた▼小津安二郎などが描いた日本女性を自らの映画に取り込み、勝ち気なブラジル人女性と対比させ、男性に従う受動的な役を日系女性にやらせた▼コロニアから離れて一ブラジル人として活躍しようとした二世にとって、「日本人」をやらされるとは不本意な経験だったに違いない。だが、当時の一世はブラジル映画で純日本女性を演じる二世をみて喜んだ。物事は複雑だ。(深)