何歳でも新しい事に挑戦を=サンパウロ市=日野原さん講演に1千人=「生き方上手」の秘訣聴く=「与えれば、得られる」

ニッケイ新聞 2008年9月10日付け

 「みなさんよくいらっしゃいました」――。五日午後、サンパウロ市リベルダーデ区の客家会館で特別講演した日野原重明さん(96)は、会場一杯に駆けつけたコロニアの高齢者に対して手を大きく広げ、そう力強く述べた。講演タイトルは「ブラジルに住む皆さんも輝いて生きましょう―九十六歳の私の長い生涯の経緯から―」。会場には、聖路加病院理事長で、日本で百二十万部以上のベストセラーとなった「生き方上手」の著者として知られる日野原さんの生き方を学ぼうと、一世、二世を問わず、千百人以上が駆けつけるなど、高い注目度をうかがわせた。
 「もし百歳の私の顔を見たいと思う方は手を上げてください」。冒頭、日野原さんはこう切り出して、会場を沸かせた。「私は運動する時間があまりない。だから講演のときにサルのように動き回る」と宣言。その言葉通り、日野原さんは一時間の講演中、用意したイスに一度も座らず、ピシッと伸びた背筋で舞台を歩き回った。
 講演前半部で、日野原さんは、先月に来伯し、二年連続で記念講演した〃百二歳児〃の教育者、曻地三郎さんに触れて、「曻地先生はまさに〃神(新)老人〃」とユーモアたっぷりに紹介。人生の経験から得た過去の教訓を次世代に伝え、世界平和の実現とともに、人間のあり方を実践する目的で日野原さんが〇〇年に設立した「新老人の会」の名になぞらえて、笑いを誘った。
 続けて、曻地さんが六十代から韓国語を学び、八十歳になって障害児教育の講演を韓国でおこなったことを紹介したうえで、「みなさんも何歳になっても新しいことに挑戦していきましょう」と呼びかけた。
 また、自身の健康論について「どんな病気にかかっていても、元気に健やかな人生を過ごしたいとする気持ちこそが、健康に生きるための必要な健康観」と解説。「命とは自分の時間。この命を人のために捧げること。それが愛することでもある。たとえ残り一週間の命としても、その時間をどのようにまわりの人に感謝して生きられるかが重要」などと語った。
 また、呼吸法にも触れて、「吸うことよりも吐くことに意識すること。上手に吐けば酸素は自然と体に入ってくる」と紹介。そして、「吐き出すことは与えることでもある。人生でも同じで、他人から一回何かをもらったら三倍にして他の人にお返しする。するとその人が他の人にお返しする。このめぐり合わせが世界平和につながる。人に与えて与えて与えれば、すぐに良きものが与えられる」と人生哲学を述べた。
 このほか、世界各国の平均寿命や三大死因などを説明したうえで、自身の食事法を紹介し、毎日魚を食べ、肉は脂の少ないものにすることをアドバイス。「年を取ったら食事の量も六割から七割ほどに減らしましょう」と話した。
 総括として、「本当に大切なものは目に見えない。辛いことを耐えた人は、より不幸な人の友人となって助けることができる。そして何歳からでも新しいことに挑戦し、食事は魚や野菜を中心にすること」と述べ、健康的に長生きするための秘訣をまとめた。
 講演後、西林万寿夫在聖総領事夫人の喜久子さんが謝辞を述べたほか、日野原さんの指揮で、来場者総立ちでふるさとを合唱。用意した日野原さんの自著もすぐに完売し、サインを求める人で溢れかえった。
 同講演は、移民百周年協会の記念事業として、この日、同会館で開催された老人週間のプログラムに続けて実施。老人週間では、栄養に関する講演やショーや劇などがあり、終日多くの人でにぎわった。