コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年9月18日付け

 日伯友好イベントここに極まれりという感さえ覚えた。横浜で十五日、歌手の宮沢和史氏が百周年を記念した音楽イベントを開催し、MPBの巨匠ジルベルト・ジルも出演した。戦後移民が日本を離れた港に在日ブラジル人を含む約二万人が集まったのだから、象徴的かつ歴史的〃事件〃といっていい▼宮沢和史という名前を聞いて首を捻った読者もいるのではないか。コロニアには馴染みが薄いかも知れないが、カラオケの定番『島唄』の作者で、今年七月にブラジル公演も行ったといえば、膝を叩いてもらえるだろう。「百周年の宣伝マン」を自称し、日本の様々なメディアで移民の歴史に触れた。百年の歩みを歌に綴った『足跡のない道』も発表、話題を呼んでもいる▼しかし、その活動を知っている人はコロニア側でどれほどいるだろうか。数年前になるが、宮沢氏は「百周年のテーマソングを作りたい」と申し出ていた。著名なミュージシャンであり、当時まだ認知されていなかった百周年を伝える影響は大きい、と考えた関係者の働きかけに百周年協会の幹部は、「いやあ私は演歌の方が…」と知ろうともせず、頭を掻いている始末だった。日本祭りのステージに登場した際には、司会者が曲の題名を「〃明日〃のない道」と紹介する非礼極まりない失態も。この題名ではお先真っ暗だが、コロニアのイベントでこの曲が流されることもない▼日本で日伯アート展を主催した友人が「友情と意地と根性、それに思いがあればできるものだ」と自負していたが、笠戸丸表彰はさておき、宮沢氏のこの数年来の活動にコロニアは大いに敬意を表すべきだと思う。(剛)