コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年11月14日付け

 日本人がほぼいない、アマゾンのど真ん中にある人口五万人弱の小さな町で九月の独立記念日に、日本移民百周年をテーマに学校の生徒たち約一万人がパレードしたと聞き、心底驚いた。五万人といってもその半分は、オランダとほぼ同じ面積の市全体に散らばっており、人口密度は恐ろしく低い▼アマゾナス州都マナウスから南に四百キロ近く、テコテコ(プロペラ機)で一時間、船なら二晩かかるというマニコレ市だ。二階建ての建物は市役所以外ほとんどなし。商店があるのは市役所を中心とした二百メートル前後の地域のみ。道行く人は圧倒的に自転車、もしくは小型バイクにのる。車もあるが実に少ない。泊まったポウサーダでシャワーは水のみ。地元民が「湯など浴びたくない」というほど常時暑い▼町でそんな調子だから、マデイラ川沿いの遠隔地コミュニティは「地の果て」的な状況だ。市とはいえ、最も遠いコミュニティまで船で片道二十八時間かかると聞いた▼そんな町で、なぜ日本移民百周年のパレードが――。まるで民家のような〃空港〃に、たまたま居合わせた教育局長にこのテーマを選んだ理由を問うと、さも当たり前という感じで「テレビでもいっぱいやっていたし」と、日本移民がアマゾン地域で貢献してきたことを賞賛した▼パレードの写真を見せてもらって、さらに驚いた。「折り紙」「武道」「スポーツ」などと日本語で書いたプラカードを持ち、着物や胴着のような衣装をつけた子供たち実に楽しそうにパレードしている▼来年はアマゾン入植八十周年祭だ。そこに至るまでに入植者がなめた辛酸に思いを馳せた。(深)