コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年12月2日付け

 晩秋から冬になると、東北地方では「しび」が楽しみになる。列島で人気の「まぐろ」であり、古事記や万葉集にも「しび」があり古くからの大和ことばだし、ドンブリに鮨飯を盛っての「しび飯」の味は忘れ難い。鮨屋の「鉄火丼」なのだが、あの美味は現在でも舌に残り、たまに懐中が豊かになると中央市場に駆けつけては「しび」を求め一直線に台所へ走る▼その日本人が大好きな「まぐろ」を俳優の松方弘樹さんが、山口県萩市の見島で釣り上げたそうだ。それがー300キロ超だというから驚く。列島の近海で獲れるのは、本マグロで大きいものになると350キロを超し、松方さんのは超大型なのである。しかもー一本釣りなのだから見上げた腕前としか申しようがない。これはもう「天晴れ」である▼今や脂が乗った大トロの味覚が好まれるけれども、これは昭和40年の頃(1965年代)からであり、江戸時代には「サツマイモ、カボチャ、マグロ等は甚だ下品にて、町人も表店住の者は食する事を恥づる體也」と嫌われたのである。しかも、青森県大間町で一本釣されたものが最高とされ、超一流の店でトロの鮨を口にすれば、目の玉が飛び出る▼それほどに美味いのだろうが、そこまではいかなくとも、本マグロ赤身を捌いての鉄火丼を胃の腑に鱈腹と押し込めたい。おっとー日本人の鮪好きは超一流で世界の漁獲量の3分の1ほどを消費する。それも刺身と鮨の専科だそうな。と、余りの美味さに獲りすぎて鮪の枯渇が危惧され先ごろも、地中海や大西洋で漁獲高を2割削減することになったし、寂しいけれども日本も食い放題はもう許されない。 (遯)