『私の浪曲半世紀』=連載小説8日から開始

ニッケイ新聞 2009年1月7日付け

 本紙第二社会面で明日八日から新聞連載小説を再開する。浪曲家の中でも最古参、生き字引ともいえる宮原円州さん(85、熊本県)の自伝『私の浪曲半世紀』だ。
 一九五三年にマリリアで行われた第一回素人浪曲大会の裏話から始まり、臨場感溢れる描写で、活き活きと当時の風俗が描かれている。思わず、「その時、私もいた」といいたくなるような場面が次々に展開されていく。
 京山円駒師匠、花中軒水月、笠井剣風、松井薫風、土井公男ら戦前から浪花節を支えてきた面々も登場し、浪曲師ならでは軽妙な語り口そのままに話が展開される。
 五歳で渡伯した宮原さんはソロカバナ線パラグアスの太陽植民地にいた頃、手品師や劇団、浪曲師が来るのを首を長くして待っていた。夜、広場で浪花節語りが始まっても、他の子供と違って目を輝かせ、むさぼるように聞いた。翌日カフェザルで仕事をする家族の前でそのマネをやって見せ、近所のオヤジに「夕べのよりうまい」と誉められたとか。本格的に始めたのは二十九歳、四十二歳で初代名人にまでなった。その過程がじっくりと描かれる。
 これは〇三年から三年間ほどかけて『のうそん』誌(日伯農村文化振興会発行)上に連載され、話題になったもの。宮原さんと同振興会の許可のもと、本紙で転載することになった。