ブラジルで白球追う少年たち=9年目のヤクルト野球アカデミー=連載〈下・終〉=課題は資金と指導者育成=佐藤監督「勝ち負けにこだわらず」

ニッケイ新聞 2009年1月14日付け

 ブラジル野球界では様々な問題を抱えている。現在の課題と現状、ヤクルト野球アカデミーが目指している野球などについて、佐藤允禧監督に語ってもらった。
 今一番問題になっていることは資金面。二〇一二年のロンドンオリンピックから、野球が競技から外れるため、ブラジルオリンピック協会からの補助金がゼロになる。今まで、補助金を遠征費用などに充てていたが、今後はブラジル野球・ソフトボール連盟、選手たちでまかなわなければならなくなる。
 用具不足は恒常的な問題だ。特に消耗品のボールは常に不足しており、バットがブラジルで生産されていないことも大きな影響を与えているという。
 その他、指導者の認識・技術不足も深刻だ。
 以前は、技術移民として渡伯した日本人たちが教えていたが、現在、日本人指導者は佐藤監督を含めて僅か四人。世代交代が進む中、二世、三世の指導者たちが徐々に増えてきている。
 しかし、ポルトガル語の指導書がないために、過去の経験で教える人たちが大半。選手一人一人にあった練習方法を教えていないため、基礎ができていない選手が多いという。佐藤監督は「技術書を読む人は少ないし、コーチの勉強不足が困る」と現状を嘆く。
 さらに「キューバ人の技術指導は良いが、生活指導などはしないからちょっと困る」と述べ、「野球は試合に勝つことは大事だが、人間性を失ってはいけない。体と精神を鍛えていくのがスポーツ。勝ち負けにこだわりすぎでは、違う方向にいってしまう可能性がある」と同アカデミーが目指す野球指導について語った。
 佐藤監督は「野球をやった子たちで今まで大きな罪を犯した子はいない」と話すが、そうした危険な状況にも危惧を表す。「犯罪や麻薬に染まって欲しくない。それが一番の心配」と心情を吐露した。この他、審判の技術レベルについても触れ、「品のある野球をしてほしいし、見苦しい野球をしてほしくない」と述べた。
 最後に、日本で活躍する選手たちについて聞いた。監督は一転して、「ここに入学して、巣立っていった人たちが日本やアメリカで活躍しているニュースを聞くと嬉しくなる」と目尻を下げた。(終わり、坂上貴信記者)
写真=佐藤監督(左)から話を聞くアカデミーの選手たち