『日系文学』新時代へ=新編集長に広川和子さん=「日本からの参加者も」

ニッケイ新聞 2009年2月11日付け

 伝統の『ブラジル日系文学』が新時代を迎えている。十年間編集長を務めた浜田照夫さんから昨年引き継いだ広川和子さん(72、東京都出身)は、四年前に移住したばかりの新来移民であり、その象徴ともいえる存在のようだ。
 ブラジル人の夫、マウリシオ・クレスポさんは東京外国語大学ポルトガル語学科専任外国人教師やNHKブラジル向け短波放送の担当者をして四十年以上も日本に住んでいた。彼の健康上の理由もあって、日本で大学を卒業した子供たちを置いて、二人でブラジルに住むようになった。
 あっさりと「最後までいることしました」という。今は骨を埋める覚悟の広川さんだが、三十代の時に、数カ月滞在した時のブラジルの印象は実は良くなかった。「現在はとっても良いところに来たと感じている」。
 渡伯一年が過ぎた頃から日系文学に参加しはじめた。「こっちの人は頑張りが利く」と舌を巻く。「八十過ぎの森さんが、少年の時の気持ちを忘れずにとても純粋な小説を書いている。そういう人に支えられている」。ジプシー少女との切ない出会いを描いた巻頭小説の『七日間の恋』の著者・森淳介さんのことを紹介する。
 浜田前編集長からの指導を受けながら編纂した三十号では、小説『遠い声』(松井太郎)、随筆や短歌、俳句、川柳、詩に加え、連載ブラジル文学『時と風』(エリコ・ベリッシモ作、田畑三郎・八巻培夫共訳)、同『男親対女親』(マッシャド・デ・アシス作、中田みちよ訳)など幅広い作品を掲載。安良田済さんによる「移民の文学を指導する人々(1)藤山洋児」という興味深いシリーズも始まった。
 一九六六年に鈴木悌一、武本由夫両氏らによって『コロニア文学』が創設され、『コロニア詩文学』に変わり、現在は『日系文学』になった。通巻では百二十二号、今年四十三年目だ。
 広川さんは二十冊を日本の友人に送って、託した。「インターネットがあるから、最近は日本からの参加者も募集しています」。昨年、日本の文芸誌月刊『すばる』の七月号と八月号で移民百年が特集されるなど、コロニアの文学に対して日本からの注目が高まってきている。
 三十二号の投稿も募集中。コロニアで新人が出にくくなった分、新しい広がりを求めている。問い合わせは同事務所(11・3203・2193、secretaria@nikkeibungaku.org.br)。詳細はサイト(www.nikkeibungaku.org.br/jap/atividades.htm)まで。