激変するデカセギ事情=大挙帰伯の真相に迫る=連載《2》=未曾有の業界危機に直面=「金ないヤツは行くな」

ニッケイ新聞 2009年2月13日付け

 「津波が来たみたい」。グライダー旅行社で翻訳担当をする安田功さんは、未曾有の〃デカセギ危機〃の現在を、そう形容し、「いつまで続くのか。いつまで(会社が)持つか、分からない」とため息をつく。
 同社の田村あゆみ代表取締役は、デカセギのピーク時には「制限ぎりぎりの週六十件、月二百五十件前後ほど領事館でビザの申請代行をしていた」と振り返る。それが、今年に入って「ゼロの日が続く」と明かす。
 同社は、派遣会社の書類代行をする、領事館認定の査証取得認定旅行社。サンパウロ州近郊に十五社あった顧客も、四社は倒産、他は「しばらく止める」と連絡してきた。
 また、宮崎秀人社長(宮崎ツーリズモ=サンパウロ市)のもとへ、日本でクビになったデカセギから国際電話で相談がくる。「(日本に)職はないか」―。昨年末から二月頭までに十数件あった。
 日本にいるデカセギにとって頼りの綱は派遣会社やハローワークだ。その小さな求人枠を、失業者が取り合っているが、最優先されるのは日本人のため、わざわざブラジルにまで国際電話で相談する。そんな相談者の大半は日本語ができず、求人誌などでバイトすら探せないようだ。
 今もデカセギを送り続けている宮崎社長によれば、求人があるのは「今まで嫌がって誰も行かなかったようなところ」だという。魚の干物工場や肉解体場、土木関係などで、時給は一・五から四割減。介護関係も多いが日本語など条件が厳しい。
 業務を続けている派遣会社の数は激減し、生き残っているところも、いずれ潰れるか縮小せざるを得ない事態だ。
 激変するデカセギ業界の一端を象徴する言葉がある。今までは「金がなければ日本で働いて返せ」だったが、「金ないヤツは行くな」との風潮に変わってきたという。
 今まで派遣会社は、航空運賃やビザ取得料金を利子付きで貸し付け、後から回収して儲けていた。ところが、現在はデカセギがいつ首を切られ、路頭に迷うか分からない。現実に貸し倒れで倒産した同業者が出てきたため、立替えをしなくなったのだ。
 数社から「もし送れたとしても、何時トンズラされてもいいように立替はしないし、保証もできない」(派遣業の男性)との声を聞いた。必要な経費約五千レアルすべて前払い。今までより利益は減るが、この危機の中、立替リスクを負わない方法に切り替えないと生き残れない。
 デカセギ向け特別定住ビザを発給する在聖総領事館の査証班によれば、同ビザ申請、発給件数共に「減少傾向にある」。昨年末の統計数値は未公表だが、五割減とまではいかなくとも「かなり減っている」という。
 複数の派遣会社側からは、「以前はなかったのに、領事館からわざわざ日本の引き受け元企業まで電話して、(特定ビザの)申請書類の身元保証人のチェックを入れるようになり、急に難しくなった」という声を聞くようになった。
 日本にいるデカセギ失業者の対応だけでも大変なのに新規に受け入れたくない、そんな思惑が働いているのだろうか。
 ただし、同査証班は「査証の基準は変わっていないし、日本が危機だからといって、以前より厳しく審査することは一切ない」と説明している。(つづく、渡邉親枝記者)