日伯ペアの支援体制を=不況下のデカセギ子弟教育=群馬大・結城准教授が講演=文協

ニッケイ新聞 2009年2月24日付け

 サンパウロ大学との全学部学術交流協定のため十九日に来伯した白井紘行群馬大学副学長と結城恵・同大学教育学部准教授が、同日夜、リベルダーデ区の文協貴賓室で日本のデカセギ子弟に関する講演会を催した。CIATE(国外就労者情報援護センター)とISEC(文化教育連帯学会)が主催。五十人余りが集まり、結城准教授による「経済不況のなかの在日ブラジル人の子どもたち」と題した講演に耳を傾けた。

 結城准教授がブラジルで講演するのは今回が二度目。同大学と県が共同で実施している多文化共生教育・研究プロジェクト(PCDC)の事業推進責任者として、経済危機下のデカセギ子弟やブラジル人学校の全体的な現状や変化、同大の活動を伝えた。
 結城准教授は、「不就学子弟が増えるのではないか」と大きな問題を提示し、「ブラジル人子弟が置かれている状況は日々刻々と変化している」と訴えた。
 「中でも先に影響が出たのは、東海。閉校に追いやられたなどと、十一月頃にテレビで最もセンセーショナルに扱われている印象を受けた」。その頃のブラジル人学校調査では、他の長野、栃木、茨城の変化はそれほどでは無かったという。
 不況の波が表面化するのは地域により時期が違った。「衝撃的な状況が報道されたおかげで、不況の波が遅れてきた他の県では先に手が打たれ、(外国人学校が)それなりの対応を受けられた」と話す。
 また、こうした報道の状況が、内閣府が異例の早さで対応することにも繋がったとして、一月三十日に「定住外国人支援に関する当面の対策」を発表したことを挙げた。
 「国だけじゃなく、各校や地域の工夫が行われています」。公的資金を個人へ投資できない代わりに地域が六百キロの米を寄付して給食費を軽減しようとする長野県の事例や、奨学金制度を設けた大垣市の例など、様々行われている助け合いの実態を紹介した。
 結城准教授は、「そんな時こそ社会システムを変えられるチャンス」と強調する。PCDCは現在、文部科学省に対して三件の事業を提案しており、公立校の日本語指導教員の増加や支援強化などを進めているという。
 続いて、PCDCが七年前から行っている在日外国人学校の健康診断を通して培われてきた、学生や子ども、親たちの温かい交流を紹介。共生のあり方や可能性を示した。
 一月十七日から始めた今年の健診は、不況下の県内就学児童数を把握するための手段でもある。県内の外国人学校児童数は昨年末の調査時点で三割減少していたが、今のところ受診者数の方は変化が見られず、「結果を熟慮しながら、具体的な支援策を打ち出してゆく」と話した。
 初めの三年以降は、健診は国の支援を受けず、学生や教員、地域の栄養士、保健士、大学病院スタッフ、通訳に至るまでボランティア。結城准教授は、「多くの志で支えられてきたが、制度化の時期が来た。とりあえずは一年だけだが、来年度文科省の概算要求に組み込まれている」と報告。
 「簡単じゃないけど、国籍と関係なく、子どもの健康は国が面倒を見る体制を求めてゆきたい」と今後の抱負を話して講演を締めくくった。
 聴講者の「親が引揚げるという選択肢を選ぶ可能性はないのか」との質問には、「定住したい親もいる。今後を様子見している人が多いのでは。失業保険が切れたり公立校の新学年が始まる四月一日が山場」と返答。合わせて、「親は仕事探しに翻弄されて余裕がない。情報量が少なく噂が噂を呼んでいる」との現状も説明した。
 翌二十日、白井副学長と結城准教授はサンパウロ大学との学術交流協定を締結。結城准教授は、「教員や学生同士の交流を進め、多文化共生への道を模索していきたい」とし、不況下のデカセギ子弟の問題に対しては、「まだ具体的な案はないが、ISECなどと協力して日伯がペアになって取り組んでいかなくてはならない」と話していた。