ぴんころはみんなの願い=日本の高齢者は今=連載《6》=ぴんころ地蔵と予防医療

ニッケイ新聞 2009年3月6日付け

 ぴんころ ぴんころ ぴんころー。
 千曲川を渡ると、野沢菜漬けで有名な長野県野沢の街。ぴんころ音頭に迎えられバスを降りると、そこには山門市。お寺の前にはかわいいお地蔵さん、これがぴんころ地蔵。二〇〇三年に地域振興の一環として佐久市役所と地元商工会が企画したものです。
 「ぴんぴんと健康長寿、そしてころっと楽に大往生でぴんぴんころり。そこからぴんころ地蔵と名付けられました。ここは長寿だけでなく、子供の健やかな成長と家運隆盛にも御利益があります。月に一回、野沢の街の商店が門前市を開いて、特産品やぴんころ商品を販売しています。ぴんころの歌や音頭も作りました」と説明され、記念撮影。
 だれでも、健康で長生き、家族に見守られてころっと逝くのが理想的。でも、そうでないのは世の常。
 前日、私たちJICA介護サービス研修員は、最後の訪問先である長野県佐久市に到着。市庁舎の最上階、八ヶ岳を一望できる市長室に案内され、三浦大助市長との会見をしました。
 「この地域は、特にいわゆる脳卒中など、高血圧に伴う生活習慣病が非常に多い地域でした。野沢菜漬けなどで有名なように、漬物や味噌などで塩分摂取量が特に多い。そこで、健康管理センターを設置して保健師や栄養士が中心となって生活改善に取組みました。その結果、脳卒中死亡率が大幅に低下し、昭和五十一年(一九七六年)には保健文化賞を受賞しました。平均寿命も延びて男性が全国一位、女性が十一位です。市町村合併後は面積が広くなり、山間地域の医療も課題でしたが、次第に整備されてきました。ぴんころということで、高齢者が健康で、家族が住みやすい街づくりを目指しています」。医師で、元厚生省出身の経歴から受ける堅いイメージとは違って、実は「ぴんころ」は市長が推進。
 次の訪問先は国保浅間病院。病院では生活習慣病予防の検診や、保健師の活動などの他、へき地医療への取り組みを紹介。保健師が山間部の集落へ巡回指導を行っていますが、その時に医療相談を受けたいとき、体調の悪いときには専用のテレビ電話を使って病院の医師が遠隔診察するというもの。
 「時間が限られて全員が受けられるわけではありませんが、今日はだれが遠隔診察を受けるか本人の希望も含めて保健師が判断します」。その場で通院が必要と診断すれば、後日病院に来てもらう。多忙な医師が出張することもない、交通手段の少ない高齢者にとっても都合のいい方法です。
 現在、サンパウロ日伯援護協会を始め、日系福祉医療団体では巡回診療を実施しています。これには何人もの医師、医療検査機器、巡回車両など多額の経費と多くの時間がかかりますが、その効果は大きいものです。例をあげると、高血圧や糖尿病の他、がんを発見し早期治療により存命した例は少なくありません。
 巡回診療は日本政府の援助などによって戦前の同仁会から始まり、現在はJICAの支援事業となっていますが、その点でブラジル日系は先駆的と言えます。予防医学の観点から、今後もより多くの方に受診していただきたいと思います。(つづく、川守田一省・援協広報渉外室長)

写真=長野県佐久市の野沢成田山薬師寺山門に五年前に建立され、今や健康長寿祈願で新たな観光名所となっているという「ぴんころ地蔵」