ぴんころはみんなの願い=日本の高齢者は今=連載《7・終》=地域で支える高齢者福祉

ニッケイ新聞 2009年3月7日付け

 いくら健康長寿と言っても、やはりホームにお世話になる場合もあります。
 「シルバーランドきしの」は、長野県佐久市の運営する最新の特別養護老人ホームで二〇〇八年開設。現在の法令に従った全室個室、十人のユニット(単位)方式。それぞれのユニット間は別棟のように設計されているので、入居している人にとっては小さなホームにしか感じません。実はこれが十二ユニットあり、全体で百二十人(うち短期滞在二十人)も入居できます。
 ユニットにする目的は色々ありますが、一番の理由は利用者にとって望ましいということです。介護度があまりに違う人や気の合わない人と暮らすのは問題ですし、体は不自由だけれど脳の働きが健常な人が認知症の人と一緒に暮らすのも不都合があります。
 この各ユニットに例外なくあるのは台所。おかずなどは調理室から運んできますが、ごはんを炊いたり、味噌汁を温めたり、盛りつけたりするのは各ユニットの台所。食事は各ユニットの食堂でいっしょに摂りますし、個室ですのでプライバシーが守られます。施設にいても、家庭生活に近い生活感を出すことが、利用者にとって大切なのです。
 昔の言い方だと「老人が入所」ですが、今では「利用者が入居」と言います。つまり入居ということはその人にとって家ですから。
 ところ変わって、私たちJICA介護サービス研修員は、ぴんころ地蔵さんから千曲川の反対側、小海線の中込駅前商店街にある市の複合型公共施設サングリモ中込を訪問。
 上は障害者も入居できる公営団地、下には市のシルバーサロン、図書館、救急歯科診療所、障害者作業所などがあります。その中の一つ、佐久市集いの広場交流センターでの説明。
 「ここでは、小さいお子さんは自由に来て遊んでいいんですよ。今は子育てに不安を持っているお母さんが増えていますので、経験のある保育士や相談員が相談にのっています。それに親同士の交流を増やしています。お互いに話すことによっても悩みが解消されるんです。他にもさまざまプログラムで子育て支援をしています」
 また、市では全小学校に児童館を併設し、放課後の学童保育をしているとのこと。お母さんが子供に心配なく働けるようになっています。
 一見、高齢者福祉と関連がないように見える子育て支援。
 実は「ぴんころ」は福祉の高齢者支援だけではできません。高齢者を支えるのは若い夫婦。その夫婦は子供を産み、育てています。
 市役所では、「合計特殊出生率(不可解な日本語ですが、これは一人の女性が一生のうちに産む子供の数のこと)が減っている日本で、佐久市は増加をしているという調査報告が出ています。安心して子育てができる環境が整ってきた結果と考えています」と説明。
 家族三世代を考えた時、たとえ同居していなくても、まず家庭が大事。家庭を支えるのは子育てをしている若い夫婦。その夫婦が仕事をしているのは地元の農商工業界。安心して働けるように教育現場などで支援。高齢者福祉、保健医療、教育や地元産業の発展など、よくよく考えてみれば、すべてつながっているのです。
 「実は、『ぴんころ』に強硬に反対する医師もいます。実際、健康な人ばかりでなく、病気だとか、介護が必要な人もいるわけです。そのような人に対して『ぴんころ』というのはけしからんと」(三浦大助・佐久市市長)
 住民の幸せと地域の発展は市の政策。そのために、予防医療だけでなく子育て支援を含め、幅広い意味で《ぴんころ》というスローガンを掲げた市長。自身が医師であり、当然反発も予想されるのに、あえてこの言葉を使った真意。
 ぴんころ地蔵さんは、無言のうちに私たちの進む道を示していました。
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 校正していただいた森悦子社会福祉士(ケアマネージャー、元援協福祉部派遣JICAシニアボランティア)、中野千恵介護福祉士(ケアマネージャー、援協サントス厚生ホーム派遣同ボランティア)に感謝申し上げます。(おわり、川守田一省・援協広報渉外室長)

写真=三浦佐久市長(真中)とJICA2008年度介護サービス研修メンバー(長野県佐久市役所で。右から3番目が川守田さん)