日系人支援策=賛否両論、真っ二つ=帰国制限問題で激論=(上)=「おこも根性丸出し」=条件は当然との声も

ニッケイ新聞 2009年4月9日付け

 日本政府が打ち出した日系人支援策で、三十万円を受け取った人が「日系人」のビザで〃時限的〃に戻れない条件を付けた帰国制限問題に関して、賛否両論、読者からの熱い反応が編集部に寄せられた。
 まず、「あなたの主張には反対」と電話してきたのは在伯五十七年の長田稔さん(78、東京)だ。「日本政府は日本人の血税で、帰国費用すら用意できない日系人を、外国人であるにも関わらず特別に助けようとしてくれている。補助金を受け取るなら、何らかの制限は当たり前。日本国民のお助けをいただいた上に、条件にまで文句をつけるのは、おんぶに抱っこ、おこも(乞食)根性丸出しだ」と論じる。
 また、別のサンパウロ市在住の読者はFAXで意見を寄せ、「再入国禁止はある意味では当然のこと」と論じる。もし帰国制限がなければ、「結果的にブラジルへの休暇一時帰国費用を政府が税金で負担することになり妥当ではない」と考える。「何がしかの歯止めの条件をつけられるのは当然であり、その歯止め部分の当然な条件のみについて感情的に捉えて否定的に報道するのは大使館として黙っておれず、抗議したことは妥当ではないか」という。
 七日に在聖総領事館からも電話があり、「あれは抗議文ではない」とし、各邦字紙には日本語、フォーリャ紙などにはポ語で送ったとの説明があった。「いろいろな見方がある」と弊紙の見解に理解を示しながらも、「これは日系人向けの特別な支援策であり、税金を使って支援するからには条件がつく」と強調した。
 帰国制限に関して、「条件を付けないと必要ない人までそれを使って帰る恐れが出てきたり、帰っても、まだすぐに戻ってしまうことが理屈的にはありえる」と前述読者と同意見だ。
 これらの意見に共通していえるのは、「デカセギはコロニアの外の人」という感覚のようだ。だから、彼らも日系人だがどこか信用できない、という不信感に基づいた疑念が湧く。
 もちろん、日系人支援策全体では職業訓練、日本語教育支援、子弟教育への配慮もあり、今までにない画期的なものだ。全体として高く評価されてしかるべきだが、ものごとは是々非々であり、不適当と思われる部分に関しては、非として論じる必要がある。
 今回、特に疑問を呼ぶのは、何年間日本に戻ってはいけないという帰国制限年数が明示されていない点だ。
 「不況がいつまで続くか分からないから何年とは言えない」との意見も聞くが、年数によってはまったく違った意味を持つ施策になり、実に重要な点だ。
 例えば、これが「一~二年」であれば誰も文句をいわない。景気回復にかかる時間を思えば「三年」という数字もありえるかもしれないが、最悪の場合「十年」「十五年」という可能性も想定できる。
 その場合、現在三十五歳だったら、期限後に日本に帰ろうとしても年齢的に「仕事がない」ことになり、事実上「二度と帰ってこなくていい」という宣言に等しい。
 それなら〃支援〃という範疇から外れた意味をもった施策になる。
 例えばスペイン政府は昨年九月に不法滞在外国人向けの自主的帰国支援策を発表したが、再入国禁止期間を「三年以上」と明確な年数を示した。しかも、この場合は「不法滞在外国人」に向けたものであって、デカセギのような合法滞在者向けではない。
 しかも、与党の「さらなる緊急雇用対策に関する提言」では、「今後の状況によっては、日系人の身分に基づく新たな入国審査のあり方について検討する」とあり、明らかに日系人向け特定ビザの見直しを示唆している。帰国制限期間に見直しされたら、どうなるのだろう。(つづく、深沢正雪記者)