コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年5月15日付け

 「日本は決定するまでに時間がかかるが、いったん決まったら実行は素早い。ブラジルの場合は、決定は早いが実行するのに大変な時間がかかる」。十三日にサンパウロ州工業連盟で行われた島内憲駐伯大使の講演後の質疑応答で、農務大臣補佐官等として両国の橋渡し役を任じてきた山中イジドロさんが、自らの体験からそう発言したのを聞き、確かにその通りだと感じた▼当地では「走り出した後から、どうやって走るかを考えている」風にみえることがままある。大まかな議論だけで意志決定できるので、大変決断は早い。でも、事前に細部を検討していないので、決定した後で、想定していなかった問題がいろいろと分かり、そこからが時間を要する。いわば思考法という文化の違いなのだろう▼島内大使は「決定するまでに時間がかかることを非難される場合が多い。ブラジルのように、決定後の実施が素早いことを理解してくれている国は世界でも少ない」と妙なほめ方をしたが、日系人は知っていても、ブラジル人中央官僚レベルではどの程度だろうか、とふと疑問も感じた▼一方、横田パウロ氏が「ブラジルには日本の役に立つ人材を供給する潜在能力が高い」と論じたとき、島内大使は「まったく同感。特にブラジル人の楽観主義を日本人に教えて欲しい。あまりに悲観的すぎて実体経済にも悪い影響を与えている」と応じ、良い意味でのラテン気質を讃えた▼日常の会話では、気質や文化の違いを非難して終わりになりがちだが、それを〃補完的関係〃ととらえ直し、違いを前向きに乗り越えるような思考法を持つこと自体が意義深いと痛感した。(深)