コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年5月19日付け

 ワンマン宰相の吉田茂と鳩山一郎の政争は今に語り継がれる。GHQから政治追放された鳩山は吉田に党総裁の座を譲るのだが、追放が解除になり吉田に「政権移譲」を要求すると、断られ抗争が始る。三木武吉,河野一郎らと民主党を設立し首相になり旧ソ連と国交回復を成し遂げるが、卒中で倒れてからのリハビリは命懸けのものであり、政権獲得への執念は物凄い▼民主党の代表に選ばれた鳩山由紀夫は、この一郎の孫である。西村建設からの違法献金で辞任した小沢一郎と「一蓮托生」と語る辺りはしぶとい政治家である。だが、政治に対する信念はどうも、あいまいであって一本の筋が通っていない。社会保障費をどうするかについては、消費税と密接に結びついているのに細かい議論を避けるし、持論である憲法改正論も代表戦になると途端に引っ込めてしまう▼あの党は右から左までの国会議員を含む複雑な政党である。従ってー外交や安全保障という最も大切な政策についての統一的なものは薄い。ソマリア沖の海賊対策やインド洋の護衛艦活動にも、党としてどう対処するのか?がはっきりしない。そしてー小沢への違法献金についての説明責任もなく、これらが民主党不信に繋がる▼と、難問だらけの民主党ながら、鳩山代表は自民党の麻生太郎首相と「政権をかけた総選挙を戦う」ことになる。麻生は吉田の孫であり「吉田対鳩山」対決の舞台を見るような気もする。まあ、政治状況が変わったし昔の話とは無関係ながら、あの吉田と鳩山の鋭くも厳しい政策論議が聞こえないのがいささかながら寂しい。(遯)