コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年5月22日付け

 朝日新聞十六日付「私の視点」に徳島大准教授、樋口直人さんの「短期雇用より日本語学習を」という在日日系人に関する意見が掲載されていた。樋口さんは三百人以上の聞き取り調査の結果から「非正規雇用から脱出した人に共通していたのは、日本語能力の高さだった」と結論付ける▼今まで日系人は仕事に忙殺されて日本語学習に時間が割けなかったが、今回の危機はむしろ、学習に強い動機を与える絶好の機会になっているという▼厚生労働省がいま実施している三カ月ほどの就労準備研修では「ほとんど効果が期待できない」とし、「いま、必要なのは職業訓練だけでなく、個々の日系人が日本で暮らし、かつ人生の選択の自由を広げるのに役立つような日本語学習の機会を提供することである。そのときは一年間の失業手当相当の所得とセットで提供する政策が求められている」となかなか思い切った提案をしている▼今から新しい外国人を入れて一から日本語を勉強させるよりも、すでに在日経験豊富な日系人を帰国させて使い捨てにせずに、長期的な視点から逆に投資をして育てるという発想という意味で、興味深い▼この意見に、勝手に付け加えるとすれば、移住一世世代の語学習得能力にはしょせん限界がある点だ。日本語教育で重点を置くべきなのは、一世たる親と日本社会との中間層になる移住二世世代だろう。二世というバイリンガル世代を充実させることで、日伯両国にとって将来的に大変に有益な世代が生まれる▼この二世は日本にいれば日伯交流の人材であり、帰伯すればコロニアの次世代にもなる。ぜひ、育てて欲しいものだ。 (深)