寄稿=『百年目の肖像』を読んで=駐キューバ特命全権大使=西林万寿夫

ニッケイ新聞 2009年5月27日付け

 ニッケイ新聞社が四月に発行した日本移民百周年記念写真集「百年目の肖像~邦字紙が追った2008年」に対し、このほど、在サンパウロ日本国総領事として百周年に関わった西林万寿夫・現駐キューバ日本国大使から感想が寄せられた。以下掲載する。

 五月の初め、サンパウロの武田幸子副領事からメールが届いた。ニッケイ新聞が移民百周年の写真集を出版したので、感想を一文書いて欲しいという依頼があったとの事。すぐにOKの返事を出し、この写真集が届くのを心待ちにしていた。
 私は百周年終了と共に三年半近く住んだサンパウロを離れ、三月二十日に大使としてキューバに着任した。当地での仕事の性格はサンパウロとかなり異なるが比較的時間に余裕があり、千客万来で多忙だった(特に昨年一年間!)サンパウロでの日々を懐かしく思い出す。
 そこへこの写真集が到着。取る物も取りあえず封を開け、まずざっと目を通し、そしてもう一度今度は隅々までじっくり拝見させていただいた。懐かしさで胸がいっぱいになり、百周年の感動がよみがえった。
 と同時に大いに感心した。何といっても構成が見事である。昨年一年間、数え切れないほど多くの記念行事が実施されたが、ほぼまんべんなくカバーされており、更に絶妙に区分けされている。祝賀行事はサンパウロだけではなくブラジル全土で実施されたが、各地での行事がバランスよく取り上げられている事もうれしい。またイベントに加えて記念グッズや各種出版物まで紹介されるなど、いわば「かゆいところに手が届く」編集となっている事にも感激した。日本語とポルトガル語が併記されているが、これは当然であろう。
 そして今こうして写真集をながめていて、昨年の祝賀事業が日系社会だけで実施されたのではなく、ブラジル社会と一体になって行われた事をふと思い出した。ブラジル全体の日系社会に対するオメナージェンが百周年成功の底流にあった事は疑いない。
 蛇足ながらもう一、二点。本来であれば、在サンパウロ総領事としてサンパウロ市から離れた管内各地で実施された各種の記念行事にできる限り顔を出すべきであった。しかし余りに多忙だったので、それがほとんど叶わず申し訳なく思っている。この写真集を拝見して、各地のコロニアで数多くの立派な行事が実施された事が確認でき、喜ばしく思った次第である。
 またこの写真集では十分に紹介されていない記念事業が幾つかあった事も事実であろう。読者の中には「自分がかかわった行事が含まれていない」などとコメントする方がおられてもおかしくない。しかし所詮すべてのイベントをカバーするのは無理である。そんな事をしたらこの写真集は倍以上の厚さになってしまうに違いない。要は昨年一年間各地でそれだけ数多くの百周年記念行事が行われた訳であり、慶賀に堪えない。
 日系社会の皆様におかれては、一家に一冊、是非この写真集「百年目の肖像」を備えてもらいたいものである。そして百周年の感動を子々孫々伝えていただければ有り難い。最後にこの素晴らしい写真集の出版を実現させた関係者のご努力に心より敬意を表して私の推薦の言葉としたい。