サンパウロ州水道局=『おいしい水の作り方』=中本氏著作のポ語版出版

ニッケイ新聞 2009年6月9日付け

 日野幸三さんの遺志を継いで、美味しい水をサンパウロに――。「生物浄化法」の第一人者である中本信忠さん(信州大学名誉教授、NPO地域水道支援センター理事長)の著書『おいしい水のつくり方』(築地書館、〇四年)のポ語版『Produza Voce Mesmo Uma Agua Saborosa』出版会が五月二十一日午後、サンパウロ州水道局講堂で行われた。
 本で紹介されているのは、化学処理して浄水を作るのではなく、砂や藻類や微小動物がゆっくりろ過する「緩速ろ過法」。ブラジルでの研究成果を元に開発されたもので、この自然の生態系を活用したろ過法は、スリランカ、バングラデシュ、インドネシアをはじめ、世界各国に広まってきている。
 出版の契機となったのは、中本名誉教授が七四年から数度、調査で来伯したことにある。
 七六年には妻、克代さんを伴って来伯し、その時、やはり水関連の研究をしていた幸三さんに知り合い、サンパウロ市の日野家にも滞在した。
 これが縁で、日本とブラジルの科学技術協定が結ばれ、日伯の研究者交流が始まった。日本側からは中本氏が多くの研究者を推薦し、共同研究もした。「この交流の中心には、常に、日野家、日野幸三という日系一世が居ました」という。
 ところが、八八年に幸三さんがブラジリアで暴漢に襲われて殺される痛ましい事件が起きた。
 中本氏は、「幸三には、水に関する生物学、生態学の研究を続けたいという気持ちがありました。私は、幸三の気持ちに応えないといけないという宿題を与えられたと思いました。今回、その宿題ができたのです」と出版を喜ぶ。
 今回、ポ語翻訳を担当したのは幸三さんの兄、寛幸さんだ。「初めての翻訳出版で、一年半もかかってしまった。弟のためと思ってやったが、僕にとっても百周年でこのようなことができて嬉しい」と笑みを浮かべた。
 当日は同水道局幹部、USP工学部で水利工学を長年教えている上原幸啓教授ら、関係者約四十人が集まった。JICAの支援で出版され、水関連企業や機関、大学、研究者などに配布する。今年中に中国語でも出版予定。