中国新聞が写真集書評=西本編集委員が執筆

ニッケイ新聞 2009年6月16日付け

 本紙が昨年の百周年を記念して発行した『百年目の肖像~邦字紙が追った2008年』が日本のメディアでも取り上げられている。
 共同通信リオ支局が各メディアに配信したほか、本紙の提携紙である「中国新聞」(本社・広島市、発行部数七十万)の西本雅実編集委員が同紙五月二十四日付けで書評を掲載した。
 西本編集委員はブラジルを取材で二度訪問、日系社会に造詣が深く、日本国内のデカセギ社会に関心を寄せた記事も執筆する「ブラキチ」記者だ。以下転載する。
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 日本で暮らす私たちが忘れた歴史を気づかせ、今を考えさせる写真集だ。ブラジルへ渡った日本移民が百周年を迎えた二〇〇八年に現地で行なわれた様々な記念行事を、サンパウロで発刊する「ニッケイ新聞」の記者たちが追い、約六百枚の写真に日本語とポルトガル語併記の説明を付けて編んだ。日本国内では海外日系人協会(横浜市)を通して購入できる。
 ルーラ大統領が出席した連邦政府の、七万人を超す参加者と皇太子さまの臨席をみたパラナ州政府などの式典、日系社会団体の規模にかかわらず催された記念行事、野菜栽培の普及から学術・スポーツ分野までに及ぶ貢献に対する顕彰式、四十七都道府県人会の活動ぶり…。
 日本が高度成長に乗った一九六〇年代までに約二十四万人が移民として渡り、約百五十万人になった海外最大日系社会の歩みが浮かび上がってくる。
 さらに、日本と地球上の真反対に位置する二十三倍もの国土に「ニッポン」文化が変容しながら根を下ろしているのが分かる。
 宗教色を抜きに鳥居が日系人のシンボルとして各自治体の肝いりで昨年は次々と建った。盆踊りを基に日本のJポップに合わせて皆が同じ振り付けをする「マツリダンス」は非日系人にも広がる。
 手巻きずし専門店「テマケリア」が登場し、ピザならぬ焼きそばの配達も日常となっている。広島風お好み焼きは毎年ある日本祭の人気の一品だ。
 ブラジルを訪れると「ジャポネーズ・ガランチード(日本人は信用できる)」の言葉をよく聞く。この評判も、徒手空拳で渡った移民とその子孫の労苦から築かれた。もとより欧州文化を基礎とするブラジル社会が、言語も生活習慣も異なるジャポネーズを受入れ、認めたからだ。翻って日本社会はどうか。
 バブル景気の人手不足解消から一九九〇年、日系人に就労制限のない在留資格を与えた。高い日給とニッポンへのあこがれ。ブラジルからは約三十一万人が定住した。
 それが不況と雇用不安定を理由に今、帰国費用助成の見返りに再入国を制限する。受容と排外。それが結果として何をもたらすのかをも写真集は問い掛けている。