「可能性広げてくれて感謝」=青空学級=三枝シニア送別の小旅行=生徒、父兄らでアパレシーダへ

ニッケイ新聞 2009年6月23日付け

 サンパウロ自閉症療育学級「青空学級」(PIPA=菊地義治代表)は、三枝たか子JICAシニアボランティアが二年間の任期を終えて帰国するにあたり六日、「三枝先生お別れ遠足」を挙行した。生徒四人と家族、関係者ら三十人はバスに乗り込んで、三枝さんがリクエストしたサンパウロ州のアパレシーダ大聖堂へ小旅行を楽しんだ。記者も同行し、薬を使わない「生活療法」の成果を見た。
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 往復五時間以上のバス移動中、笑顔をふりまく佐伯ひろしくん(11)。PIPAが、二〇〇六年に創立した時からの生徒だ。
 母の春美さんは、「すごく笑うようになった。前は手に追えないほどじっとしてられなくて、偏食もひどくて」。今は一輪車を乗りこなし、好き嫌いせず食べる。一人でできることが増え、日々、仲間と一緒に成長している。
 「薬を飲まず、自分でコントロールできてるっていうのがすごい。昔は医者に行く度に、黒色をした強い鎮静剤を渡されていた」と春美さんは振り返る。
 三枝さんが指導する「生活療法」は、薬を使わない。「体力作り・心作り・知的開発」を二十四時間教育、集団環境で行うのが特徴だ。
 「まさか一輪車に乗れるようになるなんて」と嬉しそうに話しながら、「家族も凄く変わった。協力的になって、笑顔が増えた」と春美さん。
 「歩けない」ほどの重症だったという九歳の非日系男児も、この遠足に家族と参加していた。
 今まで学校に連れて行っても成長が見られなかったが、四月から週二日だけPIPAに通いはじめてすぐ歩けるようになった。両親は「とても感激した。将来に希望が持てた」と喜びを隠さない。
 現在は十歳前後の男児五人が通うPIPA。ブラジルで初めての「生活療法」を行う施設として、だんだん認知度が上がり理解者が増えつつある。菊池代表は、「一、二年後には学校を建てて、もっとブラジルに広めていきたい」と意気込む。
 保護者も三枝さんの指導を受けてきた。ひろしくんの父、佐伯栄一さんは、「ここまで息子らの可能性を広げてくれて、全て三枝先生に感謝している。今までの経験を、もっと苦労している自閉症の人のために広げていかなくちゃいけない」と話していた。
 「ずっと行きたかった」というアパレシーダを満喫した様子の三枝さんは、任期を終えて帰国することに対して「心残りはたくさん」。
 だが、「(当初の目標の)七〇%は達成できた。食べるのが好きな生徒に冗談で『これ(食べ物)あげない』って言うと、手を合わせて『Me da, por favor』って話すんですよ」。子供たちの成長を語るときは常に笑顔がこぼれる。
 生活療法を研究・実践し続け、日本、米国、ウルグアイ、ニカラグアの各地で活動してきた。新たに海外から指導要請があるというが、「PIPAの指導は離れていても続けていくつもり。未来に向かって一緒に頑張りたい」と述べていた。